ブックマーク / musashimankun.hatenablog.com (31)

  • 「闇が滲む朝に」🐑章 最終回(第35回)「それでも桜は咲くっさ、負けねでファイト」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    さあようこそ、のど自慢に ヒゲさんの車で徹たちが「もとずろう温泉旅館」に戻ったのは、その日の午後6時前だった。はなえはそのまま温泉に入り、事をした後は自分の宿泊部屋に入った。 徹は午後7時から宴会ルームで行われる「もとずろう温泉旅館 のど自慢大会」を見ながら酒を飲むことにした。今回はさすがに参加者も少なく6人ほどだという。コロナウイルスの影響で宿泊客は皆無に等しく、徹とはなえの他は地元の人ばかりだった。宴会ルームには空気清浄機を四方に設置し、ずんいちろ社長はこういう時期だからこそ、皆が元気を出すために開こうと決めたのだ。 「やあやあ、ようこそ」 宴会ルームに徹が入ると、マイクテストをしていた男が声をかけてきた。 「初めてですね。地元の人じゃないね。今日は思い切っきり歌ってさ」 「いやいや、僕は見に来ただけですよ。参加しなくても。見るだけでいいからってヒゲさんに言われました」 「そう。ヒゲ

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    YO-PRINCE
    YO-PRINCE 2020/03/31
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第34回「なんてこたあ、ねえっさ。負けねっさ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    なんてこたあ、ねえっさ 「のど自慢、大丈夫ですかね」 徹がヒゲさんの顔を見る。 「やるっさ。どんなことがあっても『もとずろう温泉』のずんいちろ社長は、どんな状況になってもやるっさ。この前もあの温泉は完全防備してるから、ウィルスなんか吹き飛ばすって言ってっさ。参加者もずんいちろ社長のこと好きだから、いつも通りやるっさ。なんてこたあ、ねえっさ。フェイトフェイト」 「ファイト、でしょ」 京子がヒゲさんの話に口を挟んだ。 「うん。フェイト?。そう。ファイト、ファイトだよ」 ヒゲさんは言いながら笑った。 「はなえさんは、あまりご無理さならない方が」 京子がはなえの方を向いた。 「私は温泉に入って、事して寝ます。のど自慢なんかには出ません」 はなえがお茶を飲んだ。 応接室の棚に並べられた 「結構、も多いですね」 徹が応接間の壁際にぎっしり並べられたを眺めた。壁に棚が組み込まれていて移動でき

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    YO-PRINCE 2020/03/25
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第33回「イノシシと闘ったさ。野良仕事も毎日が命懸けっさ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    ジョイは綱なしで外に出さねっと 「ただいま」 徹たちが京子と話しているところに、ヒゲさんが帰ってきた。 「おかえりなさい」 京子は笑顔でヒゲさんを迎えた。 「今日は早いわね」 「ああ。お客さん、あんまり待たせちゃいけねっから」 「おかえりなさい」 京子からヒゲさんのことを聞いた徹とはなえは改めて見直すように、ヒゲさんに挨拶した。 「すみません。ジョイだけは毎日、朝晩、外に連れていかねっど。運動不足になるっけ。コーシー、持ってきて。それともお茶がいいですか」 ヒゲさんはテーブルの上の、徹の空になったコーヒーカップを眺めた。 クマとかイノシシも出るさ 「おかわりがいいですか」 京子が二人に聞く。 「いえいえ、もうお構いなく」 徹が頷きながらはなえの方を向いた。 「ええ、もう。いただきましたから」 はなえが頷いた。 「はなえさんはお茶だね。で、こちらはコーシーだね」 ヒゲさんが徹の方を向いた。

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    YO-PRINCE 2020/03/22
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第32回「自分が飛んでいる。あの体験が全てを変えた」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    自分がどこかに飛んでいる リングのコーナーポストから飛び降り、相手選手のラブレスタ―めがけて身体をぶつけていった筈のヒゲさんの身体は、悲惨にもマットに全身を打った。そこにラブレスタ―の姿はなかったのだ。ヒゲさんはその時・・・・・・。自分がどこかに飛んでいると感じた。 自分がゆっくり空を飛びながら、やがて見えてきたのは霧の中に浮かぶ川だった。その先にどこかで見た記憶のある人たちがいる。にこやかとはいえないが、確かに手を振ってこちらに来るように促している。ヒゲさんはいい気持ちのまま、川を渡りそちらの方向に行こうとした。しかし、どこからか、「まだ、そこはダメだよ」という声が聞こえてきた。 まだ、そこはダメだよ ヒゲさんはその声を無視して再度、その川を渡ろうとした。 「まだ、そこはダメだよ」という声が聞こえたかと思うと、誰かがヒゲさんを地上に戻そうと身体を引っ張った。その瞬間、ヒゲさんは再び激痛を

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    YO-PRINCE 2020/03/20
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第30回「ヒゲさんがプロレスラー引退を決意した理由」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    かつてプロレスラーだった男 徹の目の前には1枚の写真が飾られている。それはリング上に立つ2人のレスラーの姿だった。1人は天源一郎、そして、もう1人はヒゲさんだ。今の風貌とは若いが確かにヒゲさんだと分かる。 「ヒゲさん・・・・レスラーだったのか」 徹はソファーのテーブルの方に降り返った。 「そうなの・・・そういわれてみれば、何となく分かるわ」 はなえがトロフィーが並べてある応接間の周りを何となく見渡した。 「こんなに沢山のトロフィー・・・・凄いわね。ヒゲさん」 はなえが納得するように首を縦に振った。 「おまたせしました」 ヒゲさんの奥さんがコーヒーを運んできた。 「奥さん、お気を遣わずに。お名前は・・・」 はなえが聞いた。 「あら、ごめんなさい。申し遅れました。京子です」 京子がはなえと徹の前に丁寧にコーヒーをゆっくりとテーブルの上に置いた。 学生時代はレスリング部に 「すみません、今日は夜

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    YO-PRINCE 2020/03/12
  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第29回「二人の逃避行 ヒゲさんは一体、何者だったのか」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    ジョイというハスキー犬 ヒゲさんは自宅に着くと徹をはなえを先に降りるようにうながし、車を車庫に入れた。 玄関の横には縦横2メートル程の柵が作られ、中には大型犬が寝そべっている。 「ジョイ」とヒゲさんが呼ぶと、尻尾を振りながら犬が柵ごしに駆け上がってこようとした。ヒゲさんは「よしよし」と柵の隙間から犬の頭をなでた。 「ずいぶんと、大きな犬ねえ」 はなえが少し怖そうに言う。 「はい。ジョイです。ハスキー犬ですけ。大丈夫ですよ」 ヒゲさんはうれしそうにジョイの首のあたりをなでながら答えた。 「また、あとでな」 ヒゲさんは言いながら自宅の玄関の方に歩くと戸を開けた。 「帰ったよお」大きな声で言いながら、「さ、どうぞどうぞ」と徹とはなえに家に入るよう勧めた。 「いらっしゃい。こんにちは」 家の中から一人の女性が出てきた。 「今日、『もとずろう温泉』に泊まるお客さんだ。さっき『竜乃湖』に連れてったさ。

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    YO-PRINCE 2020/03/04
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第28回「二人の逃避行 龍神のいる森に住むヒゲさんという男」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    龍神様はありがたいから 「竜乃湖」でしばらく立ち話をしながら3人は車に戻った。 ヒゲさんはバックミラーを見ながら、ゆっくりと車をバックしユーターンさせた。 「どうだ、いいとこだっけ」 ヒゲさんが隣に座る徹に聞く。 「ええ。静かでいい所ですね」 「ヒゲさんはここで竜を見たことがあるの?」 後方座席に座るはなえが聞いた。 「うん?・・・・まあ、どうかねえ」 ヒゲさんは言葉を濁すとエンジンをかけた。 ランドクルーザーが重厚感のある音を出しながらゆっくりと動き出した。 「龍神様はありがたいから・・・・龍神様を祀った神社や温泉も日各地にあるしね。私も家族の健康と安全を拝んできたよ。今日はコロナウイルスを退治してくれるようにね。我々が悪いんだけどさ」 「へええ。はなえさん、詳しいね」 徹が感心したように言う。 のど自慢大会に出っか 「どうする?このまま『もとずろう温泉』に戻っか?それともウチでお茶で

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    YO-PRINCE 2020/03/03
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第27回「二人の逃避行 やっぱ『竜乃湖』には、何かがありそうだっ!」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    やはり何かがいそうだっ! 徹たちが車から降りると、横幅約100メートル、縦約200メートル程だろうか。大きな湖が目の前に横たわっている。湖の奥の方はうっそうとした林を抜けるように延々と伸びている。入口付近には「竜乃湖」と書かれた看板が立てられ、歴史と注意書きが綴られていた。 確かにしんとした雰囲気で、何かがいそうだと徹は直感した。 「静かな、いい所だねえ」 はなえがポツリと言う。 ヒゲさんが両手を合わせて静かに黙とうする。徹は運転席でヒゲさんが言っていたことは当だと思った。つられて徹とはなえも両手を合わせた。ヒゲさんが何か独り言を言っている。と、バタバタと水面を叩く激しい音がした。 「鴨だ・・・・・」 ヒゲさんが言う。 「鴨ですか・・・・あれ」 徹は水面すれすれに羽ばたこうとする鳥を見た。 「ここに竜がいたんだね」 はなえが聞いた。 「そう。遠い昔の話だけどさっ。あ、そう、たまに竜が見え

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    YO-PRINCE 2020/02/28
  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第26回「二人の逃避行 異常気象にやられねえよう、『竜乃湖』で拝むっけ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    黄色のランドクルーザーでやってきた 髭面男のヒゲさんから「竜之湖」に誘われた徹は、風呂から上がるとはなえにその旨を伝えた。ヒゲさんが自分の車で「もとずろう温泉」まで迎えに来てくれるという。 近くのうどん屋で昼飯をとった徹とはなえは、午後1時に温泉の前でヒゲさんが来るのを待った。 徹がはなえと立ち話をしていると、やがて約束の時間の5分前にヒゲさんの運転する車がやってきた。 黄色のランドクルーザーでヒゲさんらしい車だと徹は思った。「竜之湖」は温泉から徒歩で歩いても大人の足で20分程だというからそう遠くではないが、はなえのことを考えてヒゲさんが車で迎えにきてくれたのだ。外見はクマのような感じがする男だが、外見に似合わず気の利く男だと感心した。 「ま、見るだけでもいいから」 ヒゲさんは車を運転しながら言った。 「へええ、そんな所があるのかい」 後方座席に座ったはなえが、大きな声で言った。しばらく温

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    YO-PRINCE 2020/02/25
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第25回「二人の逃避行 ネッシー?かつて本当に竜が住んでいた」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    かつて当に竜が住んでいた湖 徹はあまり髭ずらの男とは深い話はしない方がいいと直感し、適当に挨拶した後でお湯から上がった。朝に温泉に浸かることなどないから、少し頭がクラクラした。 近くの洗い場の椅子に座り、前のシャワーを出す。一瞬、冷たい冷気が身体を包んだ。すぐにお湯が出てきた。そのままお湯加減を調整しながら身体を洗い、お湯をかける。もう一度、お湯に浸かろうか考えた温泉の手前には、ちょうど、あの男が身体を洗い終えお湯に浸かろうとしている。 徹は見て見ぬふりをして、そのまま温泉から出た。自分の洋服を置いたロッカーを鍵で開け、バスタオルで身体を拭く。ふと、ポスターに目がいった。 「かつて竜が住んでいた 竜乃湖」と大きく書かれた湖の写真のポスターが壁に貼ってある。 「竜乃湖・・・・・かつて竜が住んでいた・・・・・」 徹はポスターに書いてあるコピーに目を通した。嘘じゃなかったのか・・・・少し悪いこ

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    YO-PRINCE 2020/02/20
  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第23回「二人の逃避行 お湯に浸かり自分が自分でないような」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    カーテンを開けると木々一色だった 「温泉に入りたかったら入ってもいいけど、どうする?しばらく休む?」 徹は、「もとずろう温泉」の女将・いちこと社長のずんいちろに挨拶した後で、はなえに聞いた。 「そうだね。午前中はね」 はなえはゆっくりと返事した。 「しかし、旅館名がもとずろうで、社長がずんいちろさんってなんか面白いねえ」 はなえがクスクス笑う。 「なんかホームページに出てたけど。もとずろうさんのお父さんが、ここの温泉を掘り当てたらしいよ。で、今のずんいちろさんは3代目になるらしいね」 「へえーそうなんだ」 はなえが真顔になった。 「じゃあ、俺は軽く温泉にでも入るとすっか」 「そうかい」 「夜はここでべるけど。昼は外になるから。すぐそこにうどん屋があるからそこでいいと思う」 「じゃあ、しばらく休んで。昼前にでも呼びにいくから」 徹ははなえに言うと自分の部屋に入った。部屋は四畳半で窓の方が

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    YO-PRINCE 2020/02/14
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第21回「二人の逃避行 行き先は、あの『もとずろう温泉』」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    さあ着いたよ。尾花だよ コーヒーを飲み終わった後で徹とはなえはトイレに寄り、駅のホームで電車を待った。 やがて「もとずろう温泉」のある尾花駅行きの電車が予定通りに来た。 二人は電車に乗ると座席に座り目を閉じた。話していると冗談を言うはなえだが、さすがに70代後半となると、近場のプチ温泉旅行とはいえ慣れない早朝の行動は楽ではない。電車は居眠りする二人を起こさない安定した速度で走りながら尾花駅に着いた。 「着いたよ。尾花だよ」 徹は隣で居眠りするはなえに声をかけた。少し驚いた様子ではなえが目を覚ました。 「早いねえ。もう着いたかい?」 リーン、やがて出発の高い音が駅構内に響く。 「さ、行くよ」 徹ははなえの右手を握った。 「よいしょ。もう着いたの。寝てたよ」 はなえは少し寝ぼけたような口調になった。 土曜日の午前9時過ぎ、既に尾花駅構内は登山客で賑わっている。徹はまだ、会社に正社員として勤務し

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    YO-PRINCE 2020/02/07
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第20回「二人の逃避行 あったかいコーシーを飲みながら」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    あんた、コーシーは好きなの 土曜日早朝のコーヒーショップに客はほとんどいない。軽音楽が店内を華やかな雰囲気にしている。 「おまちどうさま」 徹ははなえと自分のコーヒーをトレーに乗せて運んできた。 「温泉は午前10時過ぎから入れるようだから。着く頃にはいい時間になると思うけど、ま、急ぐことはないから。着いたら周りを少し散歩でもしようか」 徹がコーヒーをはなえの方に置いた。 「砂糖は入れるでしょう」 徹ははなえのコーヒーカップにステックシュガーを入れた。そういえば、徹も数十年前には、若かった多恵子と喫茶店でコーヒーを飲んで将来について話をしていた。まだ希望に満ちていた頃だ。 「コーヒーはおいしいね。はなえさんは好きなの?」 「よく飲むよ。インスタントだけど。あんたはどうなの?あったかいコーシー」 「コーシーって・・・・好きだよ」 徹ははなえのジョークに気づいた。たまに冗談を言うのだ。 「うーん

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    YO-PRINCE 2020/02/02
  • 「闇が滲む朝に」🐏章 第19回「二人の逃避行 ちみの瞳に恋してるってか!?」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    秘めた二人の逃避行? 「この前に外出したのはいつだったかねえ。夏ごろだったかなあ」 はなえがタクシーの窓の外を眺める。 「8月頃・・・・?」 「そうだね。確か・・・・」 タクシーが信号待ちで停車した。 「確か息子夫婦と事したんだね・・・・」 再び、タクシーが動き出す。 「息子さんたち、たまに来るの?」 徹が聞いた。 「そう。たまにね・・・・」 やがてタクシーが「キツネ駅」近くの繁華街に入った。繁華街の街燈で一瞬、車内が明るくなった。 「その辺で止めてください」 「キツネ駅」に通じるエスカレーターの前でタクシーが止まった。徹が料金を確認すると運転手に千円札を渡した。 「はい、710円ですね」 運転手は言いながら財布の中から小銭を集めておつりを返した。 「慌てなくていいから」 徹はタクシーを降りるはなえに声をかけた。 「よっこらしょ」 「忘れ物はないかい」 徹が再度、タクシーの後部座席を確認

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    YO-PRINCE 2020/01/31
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第17回「えっ?スーパーで偶然に会った人が」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    夕方のスーパーで発見 徹の・多恵子が働くスーパー「モリダクサン」は1階が品売り場で2階には衣類や日用雑貨を中心に販売している。店舗によって面積や形態も違うスーパーだが、「モリダクサン」は大型の物とは違い品に特化した店舗だ。 だから平日とはいえ、もちろん夕方は夕飯用の買い物をする主婦たちで混んでいる。 店内には魚類を販売する店員の大きな声が響いている。 「さああ、らっしゃい、らっしゃい」という、男の喉の奥から出る、あのだみ声のような大きな声だ。この声は、どんなに時代が変わっても、スーパーではずっとなくなったことがないんだろうと徹は思う。そう、いつの時代もずっとなくならないものはあるんだよ。 徹はコンビニエンスストアには、今も昼を買いによく行く方だが、スーパーはあまり行ったことがなかった。事は多恵子が作るから、買い物も多恵子が一人で行くことがほとんどだった。 店内で偶然に会った人に驚

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    YO-PRINCE 2020/01/23
  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第16回「一日、一日を精一杯に生きるということ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    ふたたび、「戦時下を思え」 夕方の5時半過ぎ、徹はスーパー「モリダクサン」の方に向かいながら思う。いつもなら一人でテレビを見ている時間帯だ。テレビといっても特に自分が見たい番組を見るわけではない。 ただ、コーヒーを飲みながら、ぼんやりとニュースを見る機会が多かった。最近では阪神・淡路大震災のニュースを覚えていた。 「辛い時は戦時下を思え・・・・」 また春香さんの言葉が徹の脳裏をよぎった。 大きな震災はまさに戦争状態と変わらないだろうと徹は思う。多くの人が犠牲になるのだ。当に被災した人たちは生きるか死ぬかを、経験するのだから。 震災国・日で生きるということ 阪神・淡路大震災が発生して25年が経過した…。そういえば東日大震災も発生してから12年が過ぎている。日では東北で大きな地震が発生して以降も、毎日に全国で地震のない日はないし、大きな災害も後を絶たない。ここ数年は夏になると大きな台風

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    YO-PRINCE 2020/01/21
  • 「闇が滲む朝に」🐑章第15回「家族の冬風には、冗談も笑っていられないなあ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    すれ違いの増えた家族 徹が図書館を出る頃には午後4時を過ぎていた。そのまま、「ラッキー園」に戻り駐輪場のバイク置き場にいく。徹はいつも「ラッキー園」まで50㏄のバイクで通っているのだ。 ヘルメットをかぶりながら、徹はついさっきに会った春香さんといい、「中華屋・ぶんぺい」で昼間からビールを飲んでいた五十六といい、清掃の仕事をし始めてから、自分は妙というか何か変な、今までに会ったことない人物に会うようになったことに気づいていた。 「無我・・・・か。んなこといってもなあ。自分は自分だし現実は現実だし」 春香さんの言ったこといが、もう一歩、理解できないまま、徹はバイクのアクセルを踏んだ。ここから15分も行けば自分の住む住宅に着く。自宅に戻ってもまだの多恵子も帰宅していない。 そういえば、近くのアパートに住む和樹とは最近は会うこともほとんどなくなった。1週間に1度は実家に帰宅しているらしいが、多恵

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    YO-PRINCE 2020/01/19
  • 闇が滲む朝に」🐑 章第14回「忘我の時、全ては満たされると、春香さんは笑った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    プライドが邪魔するとマイナス 徹には図書館館内の喫茶店で、皿やコップを洗う音が聞こえてくる。静粛の中の図書館で、ここだけは少し違う雰囲気を醸し出している。 正面に座る春香さんはコーヒーを飲みほした。 「コーヒー、もう一杯、飲もうか」 「自分はまだありますから、どうぞ」 春香さんは後方のアルバイトに手を上げた。二人の間に沈黙が続いた。 「ゴミの回収なんてってね、やれないって。どうしてもプライドが邪魔するんだなあ」 春香さんがポツリとこぼした。 「プライド・・・・そうですかね。自分が今までに経験したことのない仕事なんで。慣れないというか」 徹が水を飲んだ。 「でも時間的には、それほど長くはないでしょう。今の施設での仕事は」 「ええ。気は使うけど、比較的、業務としては楽な現場だと面接でいわれました。今の会社での他の現場では、主任が自ら定期清掃もやるから結構、機械も操作がむずかしい物を使用したりす

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    YO-PRINCE 2020/01/13
  • 「闇が滲む朝に」🐑 章第13回「辛い時は戦時下を思え、と春香さんは言った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    図書館であの人に再会 「初心・・・・大事だよなあ、やっぱ」 徹は控室の壁に貼ってある「初心忘るべからず」の言葉を頭の中で反芻しながら「ラッキー園」の外に出た。 午後3時過ぎ、冬の空は晴れているとはいえ、どこかグレーの色合いを漂わせつつあった。この時間帯は「中華・ぶんぺい」には暖簾は掲げられていない。午後5時までは休息時間なのだ。 徹は向かい側の道路に「中華・ぶんぺい」の店舗を見ながら、そのまま真っすぐに●●駅へと向かった。10分も歩けば駅に到着するが、「ラッキー園」で仕事を始めてから、徹は駅近くの図書館に寄ることが増えていた。新聞を読めるからだ。 図書館はまだ建築されてそれほど時間が経過していないのか、新築の匂いがする。館内には学生や主婦や子供、そしてなぜかおじさんたちが多い。おじさんたちには定年した人や失業中の人が混じっているだろうなと徹は思う。 徹はいつものように新聞がストックしてある

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    YO-PRINCE 2020/01/08
  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第12回「絶望するなかれ。今が大事よ。身体が動けば何でもできる」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    身体が動かないと苦痛になる仕事 徹は目を覚ますと、ずずっと椅子からずれ落ちそうになった。な、なんだ、今の夢は・・・。そのまま椅子に座ったままで、ぼおおっとしていた。いつもゴミの回収をし終わるのが午後2時過ぎだから、終業時間の午後3時までは1時間ほどの余裕ができるようになっていた。 来なら、施設内を見回って汚れているところがないか確認すべきなのだが、そこまで徹は仕事熱心ではない。一般的には1時間も余裕のある現場などないに等しい。しかし、ここはなぜか時間的に余裕があった。ま、それは徹の仕事の様子を見なければ、どんな感じか分からないという会社側の思惑でもあった。ま、信じられていないのよ。 他の女性二人はしっかりと業務をこなす方だ。が、実は男性でしかも、それなりの大学を出て、徹のような正業に就いきていてある程度の年齢に達している者には、身体が動ない人間が多い。 まだ年齢的に若かったり、継続して何

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    YO-PRINCE 2020/01/05