先月から小説家の藤谷治さんとの往復書簡「創作と批評と編集のあいだで」を始めた。この連載をはじめた意図は第1信の「本の激変期のなかでどう生きるか」に書いたので繰り返さないが、同世代の信じられる小説家との言葉のやりとりに静かな興奮を覚えている。 私が「マガジン航」を始めたのは2009年の秋だった。この年の夏の東京国際ブックフェア/電子出版EXPOで当時ボイジャーの代表取締役社長だった萩野正昭さんと久しぶりにお会いし、意気投合したのがきっかけだった。たまたまこの時期は日本における何度目かの「電子書籍元年」(なぜかマスメディアは数年おきに集中的に「電子書籍」について過剰報道を繰り返してきた)に当たっており、本誌でもこの分野についての楽観的な見通しや期待を伝えることが多かった。 あれから十年弱の歳月を経て、「電子書籍」はある程度の定着をみた。とくにマンガ市場では電子化されたコンテンツがほぼ半分を占め