黒漆塗執金剛杵形兜(くろうるしぬりしつこんごうしょなりかぶと)という。鉄製の兜鉢の上に、金剛杵(五鈷杵)を握る腕が伸びている。金剛杵とは、人の煩悩を打ち砕くとされる密教法具のひとつ。煩悩すなわち、敵を打ち砕くという強い意思が打ち出された兜である。 なぜ「勇ましさ」はある程度を超えると「バカバカしさ」に転じてしまうのだろう。 ある種の「勇ましい」劇画漫画を見たときに感じるバカバカしさのようなものを、ここにも感じてしまう。 高貴にみせようと塗られた漆のテカりが、より笑いを誘う。 「神妙な顔で塗ってるんだろうなあ、職人は」と思うと、もうなんともである。 漆はズルいよ。漆は。 作り手が「勇壮さ」を狙っていることは、十分に理解できる。 実際、ぬうっと突き出た握りこぶしに、勇ましさを感じもする。 しかし、これをかぶって、颯爽と馬に乗って戦場を駆け巡る武士の姿を想像すると、どうにも笑えて仕方がないのだ。