■ナチスの手口の巧妙さ 戦争がもたらす最大の恐怖は、平和な時の道徳が失われることだ。 戦争中では敵を殺すことが奨励される。また反対する者を憎悪し、安易に攻撃するようになってしまう。これはどの民族、どこの国民もが仕出かしてしまう過ちだ。なかでもナチス・ドイツのユダヤ人虐殺は、組織的に計画的に「根気強い」といっていい執拗さで継続的に行われた。 それでも、ドイツにもヒトラーに抵抗をし続けた人々がいた。学生や知識人、あるいは名誉を重んじる軍人、そして特に権力を持たない一般市民の一部が、ユダヤ人を匿い、亡命を手助けし、ヒトラーの暗殺を計画した。 しかし本書で強いインパクトを感じるのは、抵抗者たちの美談や戦時下にもあったドイツ国民の良識より、良識的な思考を保つ人々を追い詰めるナチスの「合法的」な手口の巧妙さのほうだ。 ナチスは「悪意法」を制定し、国家と党に対する「悪意ある攻撃」を犯罪と定め、「ユダヤ人
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