ラブホテルに対する意識が私たちの世代でがらりと変わった、と発見した女子大生が、それを卒論のテーマにした。 しかし、先行してラブホテルを研究していた井上章一に厳しい言葉を浴びせられる。 「君の卒論、私の書いたものをまとめただけでつまらなかったけど、大学院に進めてよかったね」 弱点を指摘されても、彼女ーー金益見(きむ・いっきょん)はラブホテル研究を諦めなかった。 独自のアプローチとして、ラブホテル経営者や建築デザイナーにインタビューすることを思いつく。 表舞台にいない人たちに会いにいき、話を聞く。 取材は話題を呼び、スポーツ誌や週刊誌に取り上げられ、ついには文春新書で 『ラブホテル進化論』というタイトルで出版されることになった。08年のことだ。さらに金はラブホテルの変遷を掘り下げ、『性愛空間の文化史』を上梓した。 本書は、江戸後期の出会い茶屋から現在のラブホまで、「一定時間をひとつの単位として