人はいつのまにか生まれていて、いつか死んでしまうその日まで、時間は止まらないし、どんなに強く願っても、時間は、誰かは、かえってきてくれない。すべての呼吸、言葉、時間、ふれあい、感情、思い出は一回きりで、その「取り返しのつかなさ」にたいして、小説家の川上未映子さんは、子どもの頃から切実な興味をもって生きてきたといいます。 新作『夏物語』は、その「取り返しのつかなさ」の最たるものである、「生まれてきてしまうこと/そして死んでしまうこと」のいっさいが描かれている、これまででいちばん長い物語です。たくさんのお話をうかがったので、今回は前編・後編にわけて、川上未映子さんとの対話をお届けします。前編はおもに、「子どもを生む」ことについて。『夏物語』というタイトルからは、本作が女性やフェミニズムということに限定されない物語だということが伝わってきます。これは女性にかぎらず、すべての人間にかかわる、人生の