日本SF界の注目作家・小川哲による巨編歴史小説『地図と拳』が第168回直木三十五賞を受賞した。日露戦争後からの半世紀、満洲のとある町という絶妙な舞台で、歴史・地理・風俗・文化の背景が緻密に描かれ、そこにダイナミックなドラマが展開するこの作品は、一読した読者を強力に惹きつけている。 この壮大な歴史ドラマはいかにして作られ得たのか。実は、作品の歴史考証には、ある中国史研究者が協力していた。『馬賊の「満洲」 張作霖と近代中国』(講談社学術文庫)の著者である澁谷由里氏がいま語る、創作と考証をめぐる秘話。 作家の「ツボ」を衝いた? カルト集団事件の研究書 第168回直木三十五賞受賞作『地図と拳』(集英社刊)の歴史考証を、『小説すばる』での連載開始前から単行本刊行までの約4年間、筆者は手がけてきた。「満洲もの」を書きたいと志した著者の小川哲氏が、拙著を読まれて、担当編集者とともに筆者の研究室を訪ねて