◇普遍的情趣を詩のように 今日のチリ文学においては、1973年9月11日のピノチェト将軍によるクーデターから89年の民政移管まで16年間続いた軍政時代にどう向き合うかが、非常に重要な課題として現れてくる。故ホセ・ドノソなど多くのベテラン作家がこの時代の暴力や亡命といったテーマを正攻法の小説的リアリズムで扱ういっぽうで、故ロベルト・ボラーニョのような詩人型の作家は軍政の恐怖を透かし絵のように浮かび上がらせる迂回的(うかいてき)手法を採用した。が、そのボラーニョにしても53年生まれ。彼より若い、たとえば73年以降に生まれた書き手たちにとって、軍政とはもはや倫理的に総括すべき事象というよりは、幼少期の心象風景として記憶にあらかじめビルトインされた日常そのものなのだ。 日常である以上、そこには私たちと同様に恋をし、不在の他者を思ってあれこれ悩んでいる愚かな人々がいる。75年生まれのアレハンドロ・サ
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