村上春樹は毎年のようにノーベル文学賞の有力候補となり、新刊が出るたびにニュースになるほどの有名作家である。 しかし正直なところ、私はその小説に関しては今ひとつ面白味がわからない。特に長編は何も取り得がないような主人公が出てきて、ごにょごにょしていてウダウダしていて、何となく格好だけはついていて、何もしないのに激しくもてたりするので、ほとんど虫のいい妄想でも書いているようにしか見えない。 一方でエッセイの類はそうでもなくて、割と好んで読んでいる。世間の同調圧力に屈せずに、淡々と個人としての生活を維持するための信条であるとか、日常生活の中のささやかな喜びや趣味に関する話題が描かれており、読んでいて苦にならない。それどころか、読めと言われればいつまでも読んでいられるほどである。 ユーモアに関して言うと、日本人にありがちな自虐的な告白や、意地の悪い嗤いがほとんどなく、常にスマートで清潔感のある明る