久方ぶりの釣行は、こうも気分の高揚を招くものかと、釣りなどと申します世迷い事に、今日も足並みは早足となるので御座います。 早朝、まだ薄暗い折からうごめく釣り師は、喜色万面 はや自分の都合で膨らました夢に酔いしれております。こうやってああやって、又釣れたわい。 真にたわいも無いささやかな夢である事ですが、これが頭の先から足の先まで、体中を支配しているのですから、立派な有夢病者ということに成って参ります。 「おお!浪士さん浪士さん!」 食料調達のコンビ二で声を掛ける者がある。干からびた声の主は昔は「開かずの秀やん」の名で鳴らした上等の釣り師だ。 何故「開かずの・・」と言うかと申しますと、釣り場に座り込むや否や自分の世界に没頭いたしまして、海上の生ける地蔵さんと成って参ります。 小用を足す時ぐらいしか動きません。このような有様ですから他人のちょっかいなど欠片も受付ませんで、終日地蔵のお勤めと言う