前回は修辞表現としての皮肉(irony)をとりあげましたが、今回は「いやみ」にかかわる表現を考えてみたいと思います。日本語の「皮肉」はかなり幅広い言語現象を指しますが、前回、一般的な言語学的定義として、「言っていることと反対のことを意味する表現」と皮肉を規定しました。このとらえ方を援用すると「いやみ」もうまく定義することができます。つまり、「真実のことを言って相手に不快感を与える表現」とするのです。前回の例を使うと、授業に遅刻してきた学生に「早いな」と言えば皮肉になりますが、「また遅刻か」と「事実」を言えばいやみになるということです。このような場合も広く「皮肉的」と言えますが、「事実関係」をもとにすると以上のように狭い意味の「皮肉」と「いやみ」を区別することができます。 この意の「いやみ」はその場、その場の事実に即して言うことでそのニュアンスが生じてきますので、定義を直接具現しているような