ハリエット・アン・ジェイコブズ/1813-1897年。ノースカロライナ州出身の元奴隷。両親と死に別れ、12歳で好色な医師の家の奴隷となり、性的虐待を受ける。自身のドラマティックな半生を綴った本書を後年匿名で出版する。 大和書房 1785円(税込) 百五十年ほど前に本書が出版されたとき、奴隷制のないアメリカ北部の人たちはこれを、白人が書いたフィクションと思ったという。奴隷は商品であり、白人支配者の所有物であることが法律で守られている南部の実態は、それだけショッキングで、現実とは思えなかったということだろう。研究によってこの本が、「奴隷少女が半生を綴った自伝」であるとわかったのは一九八七年のこと。再発見されて以来、本国ではベストセラーになっているという。 主人公、つまり本書の著者は黒人の、奴隷の運命を背負った少女だ。彼女を取り巻く状況は絶望的に閉塞しているが、それがさらに悪化するのが子供時代を