「何を食べているか、よくわからないものが好きなんです」 会議室の中で、男はそう言った。 なぜこの男と、こんな不思議な話をしているのかよく分からなかった。 彼は職場に新しく導入されるシステムの説明に来た他社の人間。 私はたまたま説明会に1番乗りしてしまっただけの地味な平社員。 初対面特有の気まずい空白に、彼は「そういえばここに来る途中無人販売のりんごを見ました」と私に話しかけた。 「近くにりんご園があるんです、安くて美味しいんですよ」 私も話を合わせる。 「そうなんですか。残念ながら僕はりんごを食べるとかゆくなってしまって…」 少し顔をしかめた若い男に、私は好きな食べ物を聞いた。 深い意味はなかった。 彼がラーメンやそば、と答えたら周辺の飲食店をオススメ出来るし、会話の接ぎ穂になると思ったのだ。 しかし彼の答えは予想外だった。 「そうですね、つぶ貝が1番好きです」 「つぶ貝!おいしいですけど