論文 『倫理学研究』第38号 関西倫理学会 2008年4月 24~33頁 膣内射精性暴力論の射程:男性学から見たセクシュアリティと倫理 森岡正博 *【数字】の箇所で、印刷頁が変わります。数字はその箇所までの頁数です。 はじめに 沼崎一郎は一九九七年に独自の「膣内射精性暴力論」を発表した。これは日本の男性学に新領域を開く画期的な論考であった。沼崎の問題提起を受けて、宮地尚子は一九九八年にその論点をさらに展開する論文を発表した。本論文で私は、沼崎と宮地によって考察された論点を検討し、そのうえで、もしこの路線で思考を進めていくならばそこからどのような帰結が導かれることになるのかを考えてみたい。この種の議論は海外においても本格的には議論されていないのではないかと推察される。関心ある読者はぜひこの議論に参加してみてほしい。 1 沼崎一郎と宮地尚子による問題提起 沼崎一郎は、一九九七年に「〈孕ませる性