駒沢の閑静な住宅街にある、マンションの一室。それが2017年にデビューしたばかりの早野唯吾のアトリエだ。伊勢丹新宿店では、メンズ館地下1階=紳士靴のリニューアルに合わせてこの新進ビスポークシューメーカーをフィーチャーする。 「靴に目覚めるドラマチックな出会いとか、足にトラブルを抱えていたとか、そういうはっきりとしたモチベーションのようなものはありませんでした。大学を出ると、ごく自然に台東分校(靴の職業訓練校)を受検しました」 早野はデビューするなり靴専門誌『LAST』の表紙を飾った。同業者も戦々恐々としている新鋭である。それほどの男なのだからと構えて臨んだインタビューは、肩透かしを食らったように穏やかだった。 「あえていうならば、クラシックなものが好きだったかも知れません。学生時代から古着やアンティークには惹かれました」 話しているうち、早野はもうひとつの記憶を呼び覚ました。 「父母の趣味