解説 単行本 - 外国文学 女が男を支配する社会のリアルな恐怖! 男女逆転の復讐ファンタジー! 渡辺由佳里(エッセイスト、翻訳家) 2018.10.25 『パワー』 ナオミ・オルダーマン 安原和見訳 【解説】渡辺由佳里 アメリカでは2016年の大統領選挙で、初めての女性大統領になることが期待されたヒラリー・クリントンが、ドナルド・トランプに敗れた。得票数ではクリントンのほうがトランプよりも280万以上多かったのだが、アメリカ独自の「選挙人制度」というシステムのために、選挙ではトランプが勝利したのだ。 自分に対して厳しい質問をする女性ジャーナリストたちにセクハラ的な嫌がらせをし、「スターなら、プッシー(女性器)をつかむとか、(女は)なんでもやらせてくれる」と自慢し、妻の妊娠中にプレイボーイ誌のモデルと不倫をし、別のポルノ女優に不倫の口止め料を払い、ツイッターでも露骨な女性蔑視の発言をするトラ
キリスト教は一神教だと言われる。しかし唯一の神と呼ばれる存在が天上に君臨しているだけでは、人々の日々の祈りとの間に距離が開きすぎる。父と子と聖霊という三位一体論が確立して神とキリストの働きが聖霊となって人間に宿るとされると、続いて『神とキリストの精神に則ってその教えに殉じた人』(はじめにiv)への崇敬が高まった。人々は日々の悩みや贖罪を、聖人を通じて神にとりなしてもらおうとするようになる。これが聖者(聖人)信仰である。 聖人とされた人たちは何らかの人々の悩みや苦しみ、例えば病気や災害、貧困などを救う誓いを立てて殉教したものも少なくなかったから、その聖人たちが立てた誓いに基づいた守護聖人として信仰を集めることになった。また、その聖人にまつわるエピソードに由来して、例えば岩を割ったので鉱山の守護聖人となったり、動物の言葉を介したので牧畜の守護聖人となるなど、職業や権能、ゆかりのある地域などの守
−−できることでもやったら駄目なんだ…… −−何で? −−向こうにいるのは生きた人間だからだ、それが理由さ! ――ウィリアム・ギャディス『JR』 僕はアメリカ 全940ページに1.2kgというその異形ぶりから、2018年末の読書界隈を震撼させた怪物、ウィリアム・ギャディス『JR』は、これまで読んだことがない種類の小説だった。 『JR』を構成する一部を読んだことなら何度もある。トマス・ピンチョンやドン・デリーロが描くポストモダン小説、マヌエル・プイグ『蜘蛛女のキス』のようなほぼ会話のみで構成された小説、金で狂う人間たちの物語、金融市場の闇を暴くノンフィクション、コングロマリット企業とアメリカ政府の癒着を描いたノンフィクション(あるいはマイケル・ムーア)、少年が大人顔負けのやり口で活躍する漫画やドラマ。しかし、これらすべてを詰めこんだ小説は見たことがない。 じつに奇妙で、最後まで読み切った後で
※この原稿は2019年2月23日発売のテレビブロス4月号『ブロスの本棚』コーナーに掲載されたものです。販売期間の3月25日が過ぎれば個人サイトに掲載可能という許可を頂いていたので、こちらにアップします。 玄界灘を越えて、すげえフェミニズム文学がやってくるらしいぜ。『82年生まれ、キム・ジヨン』の噂は、そんな風に日本の私・81年生まれ王谷晶の耳に入ってきた。それを聞いたときはかなりワクワクした。韓国アクションのように女刑事がクソ野郎共にドロップキックをお見舞いする小説なのだろうか。しかし届いた本をいそいそ読み始めると、その予想はハズレなことがすぐに分かった。ソウルで子育て中の主婦キム・ジヨンがある日を堺に突然自分の母や出産で死んだ友達が取り憑いたかのような状態になり、弱りきった夫の勧めもあり受診した精神科のカルテを読んでいく、という一見回りくどい形式で書かれたこの小説は、とても淡々としている
1929年発表のE・H・ヴィシャックによる長篇小説『メドゥーサ』(安原和見訳 アトリエサード)は、ようやく邦訳が実現した幻の怪奇幻想小説です。作者は『アルクトゥールスへの旅』で知られるデイヴィッド・リンゼイの親友だったそうですが、リンゼイ作品に劣らない奇妙さで、聞きしに勝る怪作です。 幼くして両親を失ったウィリアム・ハーヴェル少年は、祖父母の家に預けられますが、恐れていた祖父の死、学校での同級生の死に自分が関わってしまったという意識から衝動的に家出をしてしまいます。 彷徨っている際に出会った男ハクスタブルは、自分が船主として参加する航海にウィリアムを誘い、一緒に航海に出ることになります。彼はかって海賊に人質に取られたという息子を探しだそうというのですが…。 基本のストーリーは、息子を探すハクスタブルの航海を描いた海洋冒険小説です。乗組員に「海賊」の一員オバディア・ムーンや不思議な容貌の男で
《この記事は約 2 分で読めます(1分で600字計算)》 全米各地の公共図書館でEブックの貸し出しが定着してきたが、経費負担がのしかかっているとフィラデルフィアの地元紙が伝えている。 メータード・アクセス(metered access)と呼ばれるシステムでは貸し出し数で課金されるが、これが図書館側の予算を食い、貸し出し業務全体の非効率化に繋がっていると図書館関係者は忠告している。メータード・アクセスでは1年あるいは2年と決められた期間と貸し出し回数が決められ、どちらかが上限に達するとその本は蔵書から消えてしまう仕組み。これに対し、一定料金でEブックを買う恒久ライセンス版(perpetual ebook license)の図書館向け価格設定は一般消費者用の本の4~5倍かかる。 読者が「無料で気軽にEブックにアクセスできる」ことを目指す、国内約300の図書館が緩く繋がる ReadersFirs
2018年10月15日17:00 by 東京創元社 アウシュヴィッツの医師メンゲレは南米に逃亡し1979年まで生きていた。ルノードー賞受賞の傑作小説 オリヴィエ・ゲーズ『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』 カテゴリノンフィクション ヨーゼフ・メンゲレの逃亡 (海外文学セレクション) [単行本] ヨーゼフ・メンゲレ、アウシュヴィッツの「死の天使」と呼ばれたナチスの医師。 小社刊の『パールとスターシャ』(アフィニティ・コナー 野口百合子訳)で〈おじさん先生〉として描かれた男。 彼は、優生学研究に取り憑かれ、純粋なアーリア人種を作り上げるために、と、アウシュヴィッツに移送されたユダヤ人たちを対象に思いつくかぎりの信じ難い人体実験を続けた。 特に、双子の研究が有名で子供たちを集め、そこはメンゲレの〈動物園〉と呼ばれていた(『パールとスターシャ』に描かれています)。子供たちの目の色を変えようと眼球に薬品を注
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く