子安宣邦『日本人は中国をどう語ってきたか』(青土社、2012年)をいかに評価すべきか ――竹内好と吉本隆明の言説の間で <石井知章(いしいともあき):明治大学教授> 1. なぜ本書が日本ではなく、中国で評価されるのか 子安宣邦『日本人は中国をどう語ってきたか』(青土社、2012年)が中国語に翻訳され、『近代日本の中国観』(生活・読書・新知三聯書店、2020年)として出版されたというニュースを少なからぬ驚きをもって受け止めていたところ、さらに今回、郭穎(廈門大学外文学院准教授)によるきわめて重厚なる書評(陳璐訳)「戦後における「江湖中国観」の欠如――日本に冷遇された方法論的著作」が本書のもつ潜在的重要性について指摘し、日中間で幾重にも屈折した言説空間を大きく修正するうえで大きな役割を果たしていることを知った。この冒頭で郭は、本書における次のような子安の言葉を引用している。 「中国とは昭和日