秦郁彦『慰安婦と戦場の性』(新潮社、1999) (1)おしごとの準備のために再読。「自虐史観」派と「自慰史観」派がはげしく対立した従軍慰安婦論争について、自慰史観派寄りの立場から「慰安婦百科全書」(あとがき)たらんと目指して書かれた書。ときどき自慰史観派的な物言いがちらちらするのには閉口するが、各種の証言や文書史料にもとづいて議論しようとしている点には好感が持てる。 (2)従軍慰安婦論争をはじめとする近年の歴史認識論争を整理する際には、「自虐史観vs.自慰史観」という対立軸だけではなく、「歴史vs.物語」という対立軸を利用しないと、全体像が捉えられない。前者は「日本は悪いことをしたか否か」という問いをめぐる軸であり、後者は「大切なのは史実の存否か否か」という問いをめぐる軸である。4つの象限を代表する論者としては、「自虐・歴史」は吉見義明、「自虐・物語」は上野千鶴子、「自慰・歴史」は秦郁彦、