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ブックマーク / morningrain.hatenablog.com (48)

  • 中井遼『欧州の排外主義とナショナリズム』 - 西東京日記 IN はてな

    イギリスのBrexit、フランスの国民戦線やドイツのAfDなどの右翼政党の台頭など、近年ヨーロッパで右翼政勢力の活動が目立っています。そして、その背景にあるのが移民や難民に対する反発、すなわち排外主義であり、その排外主義を支持しているのがグローバリズムの広がりとともに没落しつつある労働者階級だというのが新聞やテレビなどが報じる「ストーリー」です。 書はこの「ストーリー」を否定します。 もちろん、経済的に困窮し排外主義と右翼政党を支持する人びとがいることを否定するものではありませんが、データを見てみれば、排外主義への支持と経済的な困窮は直結するものではありませんし、排外主義と右翼政党支持の関係というのも複雑なのです。 書は、このことをイギリス、フランス、ドイツといった西欧の主要国だけではなく、中欧や東欧なども含めたヨーロッパ全域のデータを見ていくことで明らかにしていきます。 右翼政党や排

    中井遼『欧州の排外主義とナショナリズム』 - 西東京日記 IN はてな
  • クラウディア・ゴールディン『なぜ男女の賃金に格差があるのか』 - 西東京日記 IN はてな

    2023年にノーベル経済学賞を受賞したゴールディンによる一般向けの書。 ここ100年のグループを5つに分けてアメリカの女性の社会進出の歴史をたどるとともに、それでも今なお残る賃金格差の原因を探っています。 世代についての叙述も面白いですが、ここでは現在の賃金格差の原因となっている「どん欲な仕事」についての部分を中心に紹介したいと思います。 目次は以下の通り。 第1章 キャリアと家庭の両立はなぜ難しいか―新しい「名前のない問題」 第2章 世代を越えてつなぐ「バトン」―100年を5つに分ける 第3章 分岐点に立つ―第1グループ 第4章 キャリアと家庭に橋をかける―第2グループ 第5章 「新しい女性の時代」の予感―第3グループ 第6章 静かな革命―第4グループ 第7章 キャリアと家庭を両立させる―第5グループ 第8章 それでも格差はなくならない―出産による「ペナルティ」 第9章 職業別の格差の原

    クラウディア・ゴールディン『なぜ男女の賃金に格差があるのか』 - 西東京日記 IN はてな
  • トマ・ピケティ『資本とイデオロギー』 - 西東京日記 IN はてな

    書を「『21世紀の資』がベストセラーになったピケティが、現代の格差の問題とそれに対する処方箋を示した」という形で理解している人もいるかもしれません。 それは決して間違いではないのですが、書は、そのために人類社会で普遍的に見られる聖職者、貴族、平民の「三層社会」から説き始め、ヨーロッパだけではなく中国やインド、そしてイランやブラジルの歴史もとり上げるという壮大さで、参考文献とかも入れると1000ページを超えるボリュームになっています。 ここまでくるとなかなか通読することは難しいわけですが(自分も通勤時に持ち運べないので自宅のみで読んで3ヶ月近くかかった)、それでも読み通す価値のある1冊です。 書で打ち出された有名な概念に「バラモン左翼」という、左派政党を支持し、そこに影響を与えている高学歴者を指し示すものがあるのですが、なぜそれが「バラモン」なのか? そして、書のタイトルに「イデ

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  • 平野克己『人口革命 アフリカ化する人類』 - 西東京日記 IN はてな

    去年の夏に出たときに読もうと思いつつも読み逃していたのですが、これは読み逃したままにしないでおいて正解でした。 著者が2013年に出した『経済大陸アフリカ』(中公新書)は、アフリカの現実から既存の開発理論に再考を迫るめっぽう面白いでしたが、今作も人口について基的な理論を抑えつつ、それに当てはまらないアフリカの動きを分析していくことで、未来の世界が垣間見えるような面白いです。 目次は以下の通り。 第1章 人口革命と人口転換 第2章 グローバル人口転換 第3章 アフリカの人口動向 第4章 人口と糧 第5章 人口と経済 18世紀後半からイギリスで1%を上回る人口増加が持続的につづいたことが人口革命の始まりと言われています。その結果、イギリスの人口は1801年の約1600万人から1920年には約4682万人まで3倍近くになりました。 これがアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド

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  •  エスピン=アンデルセン『平等と効率の福祉革命』 - 西東京日記 IN はてな

    『福祉資主義の三つの世界』で現代の福祉国家における複数の均衡を鮮やかに示してみせた著者が、女性の社会進出を一種の「革命」と捉えた上で、そこで生じる問題点や、あるべき社会のデザインを語った。 女性の社会進出を進め、そこから生じる問題をクリアーするためには、『福祉資主義の三つの世界』で打ち出された福祉国家の三類型の中の社会民主主義レジームこそが有効な解決策であるという明解な主張がなされています。 目次は以下の通り。 序論 第I部 第1章 女性の役割の革命と家族 第2章 新しい不平等 第II部 第3章 家族政策を女性の革命に適応させる 第4章 子どもに投資しライフチャンスを平等にする 第5章 高齢化と衡平 まず、ここでいう「革命」とは、女性の社会進出とそれに伴う家族の変容です。この家族の変容について、著者は次のように述べています。 ゲイリー・ベッカーやタルコット・パーソンズのような戦後の社

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  • 川中豪『競争と秩序』 - 西東京日記 IN はてな

    副題は「東南アジアにみる民主主義のジレンマ」。フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポールの5カ国を比較しながら、安定した民主主義には何が必要なのかということを探っています。 民主主義を語る時に引き合いに出されるのは欧米の、いわば「民主主義先進国」が多いですが、民主主義は世界に広まっていますし、近年ではその揺り戻しも起きていると言われます。 また、以前は「経済発展→中間層の台頭→民主化」という経路が想定されていましたが、中国の発展とともにそれに疑問符が付けられていますし、書でとり上げているシンガポールも経済は十分に発展しながら民主化が進んでいない国と言えます。 フィリピンではピープルパワー革命で倒されたマルコス大統領の子どもが大統領選挙で圧勝しましたし、タイでは2014年のクーデタ以降、軍人が政権を掌握しているなど、東南アジアでは民主主義が上手くいっているとは言い難いのですが

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  • リン・ハント『人権を創造する』 - 西東京日記 IN はてな

    タイトルからして面白そうだなと思っていたですが、今年になって11年ぶりに重版されたのを機に読んでみました。 「人権」というのは、今生きている人間にとって欠かせないものだと認識されていながら、ある時代になるまでは影も形もなかったという不思議なものです。 中学の公民や高校の政治経済の授業では、社会契約説の思想家たちの、「たとえ国家がなかったとしても、すべての人間には一定の権利・自然権があるはずでしょ」という考えが、「人権」という考えに発展し、アメリカ独立革命やフランス革命で政府設立の目的の基礎として吸えられた、といった形で説明していますが、そもそも社会契約説が登場する前には「すべての人間には一定の権利があるはずでしょ」という議論は受け入れられなかったと思うのです。 こうした謎に1つの答えを与えてくれるのが書です。 人権というと、どうしても法的な議論が思い起こされますが、書が注目するのは「

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  • 倉田徹『香港政治危機』 - 西東京日記 IN はてな

    2014年の雨傘運動、2019年の「逃亡犯条例」改正反対の巨大デモ、そして2020年の香港国家安全維持法(国安法)の制定による民主と自由の蒸発という大きな変化を経験した香港。その香港の大きな変動を政治学者でもある著者が分析した。 香港返還からの中国と香港のそれぞれの動きを見ながら、さまざまな世論調査なども引用しつつ、いかに香港が「政治化」したか、そして香港を取り巻く情勢がいかに変わっていたのかを論じています。 目次は以下の通り。 序 章 香港政治危機はなぜ起きたか 第一章 中央政府の対香港政策――鄧小平の香港から,習近平の香港へ 第二章 香港市民の政治的覚醒――経済都市の変貌 第三章 「中港矛盾」の出現と激化――経済融合の効果と限界 第四章 民主化問題の展開――制度設計の意図と誤算 第五章 自由への脅威――多元的市民社会と一党支配の相克 第六章 加速する香港問題の「新冷戦化」――巻き込み

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  • デイヴィッド・ガーランド『福祉国家』 - 西東京日記 IN はてな

    ミュデ+カルトワッセル『ポピュリズム』やエリカ・フランツ『権威主義』と同じくオックスフォード大学出版会のA Very Short Introductionsシリーズの一冊で、同じ白水社からの出版になります(『ポピュリズム』はハードカバーで『権威主義』と書はソフトカバー)。 著者は、スコットランドに生まれ現在はアメリカのニューヨーク大学で教えている犯罪や刑罰の歴史を研究する社会学者です。 「なぜ、そのような人が福祉国家について論じるのか?」と思う人も多いでしょうが、書を読むと、著者が福祉国家をかなり広いもの、現代の社会を安定させる上で必要不可欠なものだと考えていることがわかり、その疑問もとけてくると思います。 目次は以下の通り。 第1章 福祉国家とは何か 第2章 福祉国家以前 第3章 福祉国家の誕生 第4章 福祉国家1.0 第5章 多様性 第6章 問題点 第7章 新自由主義と福祉国家2.

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  • 黒川みどり『被差別部落認識の歴史』 - 西東京日記 IN はてな

    中学で公民を教えるときに、教えにくい部分の1つが被差別部落の問題です。 問題を一通り教えた後、だいたい生徒から「なんで差別されているの?」という疑問が出てくるのですが、歴史的な経緯を説明できても、現代でも差別が続いている理由をうまく説明することはできないわけです。 もちろん、地域によっては子どもであって差別を身近に感じることもあるかもしれませんが、東京の新興住宅街などに住んでいると、差別が行われている理由というものがわからないのです。 書はそのような疑問に答えてくれるです。 書の「はじめに」の部分に、結婚において差別を受けた部落出身の女性が、差別する理由を重ねて尋ねると、相手の母親が「すみません、なんで今でも差別があるんでしょうか?」と、差別をしているにもかかわらず、その理由を差別している相手(女性の母親)に訊くというエピソードが紹介されているのですが、差別している人が差別している

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  • ブランコ・ミラノヴィッチ『資本主義だけ残った』 - 西東京日記 IN はてな

    世界の不平等について論じた『不平等について』や、「エレファント・カーブ」を示して先進国の中間層の没落を示した『大不平等』などの著作で知られる経済学者による資主義論。 現在の世界を「リベラル能力資主義」(アメリカ)と「政治的資主義」(中国)の2つの資主義の争いと見た上で、その問題点と今後について論じ、さらに「資主義だけ残った」世界の今後について考察しています。 著者のミラノヴィッチはユーゴスラビア出身なのですが(ベオグラード大学の卒業で、アメリカ国籍を取得)、そのせいもあって社会主義とそこから発展した中国政治的資主義の分析は冴えており、「社会主義が資主義を準備した」という、挑戦的なテーゼを掲げています。 アセモグル&ロビンソンは『国家はなぜ衰退するのか』や『自由の命運』の中で、中国の発展はあくまでも一時的なものであり、民主化や法の支配の確立がなされないかぎり行き詰まると見てい

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  •  茶谷誠一『象徴天皇制の成立』 - 西東京日記 IN はてな

    占領期の政治を詳しく見ていくと、占領期に昭和天皇が果たした役割を無視するわけにはいかないと感じますし、敗戦によって大権を失ったはずの昭和天皇がある意味で生き生きと積極的に政治に関わろうとする姿も見えてきます。 基的に日国憲法の施行によって天皇は政治的な意思決定のルーチンから完全に切り離されるわけですが、占領期にはまだその分離がきちんとなされていないのです。 この問題を正面からとり上げたのがこの。カバー裏の紹介に「「統治権の総攬者」から国政に関する権限を持たない「象徴君主」への転換を迫られた天皇は、自らの理想とする君主像とGHQ・日政府が要求する象徴としての役割のギャップに苦悩しつつ、側近たちと共に抵抗を試みていった―」とありますが、このギャップがどのようなもので、それがいかに埋まっていったのかということを分析しています。 著者は『宮中からみる日近代史』(ちくま新書)において戦前の

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  • エリカ・フランツ『権威主義』 - 西東京日記 IN はてな

    ここ最近、民主主義をテーマにしたが数多く出版されていますが、民主主義ではない政治というのは一体どんなものでしょう? 書は、その「民主主義ではない政治」である権威主義について語ったものになります。オックスフォード大学出版局の「What Everyone Needs to Know(みなが知る必要のあること)」シリーズの1冊で、「権威主義とはどんなもので、どんな特徴があるのか」ということを総合的に論じています。 一口に権威主義といっても、プーチンやエルドアンのようにわかりやすい「強いリーダー」がいるタイプもあれば、クーデターによって軍政となったタイやミャンマーのようにトップの姿が見えにくいタイプもあります。 書は「こういった違いをどう考えればいいのか?」という問いだけでなく、「民主主義はどうやって権威主義体制に移行するのか?」、「権威主義体制はどのように崩壊するのか?」といったさまざまな

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  • 坂口安紀『ベネズエラ』 - 西東京日記 IN はてな

    副題は「溶解する民主主義、破綻する経済」で、中公選書の1冊になります。 ベネズエラに関しては、コロナ前に経済がほぼ崩壊しているといったニュースが流れていました。その後、コロナ禍の影響でベネズエラに関するニュースは減っていますが、この状況で経済が好転しているとは思えません。 ただ、それにしても産油国であるベネズエラの経済がどうしてここまで悪化してしまったのでしょうか? ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量を誇る産油国であり、天然ガスやボーキサイトなどの資源も豊富です。実際、ベネズエラは80年代なかばまではラテンアメリカでもっとも豊かな国の1つで、民主体制を維持していました。 しかし、2014年以降の経済状況は特にひどく、2014年から7年連続のマイナス成長、しかも2017年からはマイナス二桁の成長でGDPは3年間でほぼ半減しました。国民の貧困率は9割を越え、産油量もチャベス政権誕生前の1日あたり

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  • スーパークレイジー君の当選によせて - 西東京日記 IN はてな

    2021年1月31日の埼玉県戸田市の市議会議員選挙(定数26)において、2020年の都知事選でもそのパフォーマンスが話題なったスーパークレイジー君こと西誠氏が25番目の912票の得票で初当選しました(政治家としてもスーパークレイジー君として活動するとのことなので、以下もスーパークレイジー君で)。 都知事選では「百合子か、俺か」のキャッチフレーズやそのパフォーマンスからイロモノ候補かと思っていたのですが、政見放送を見たら非常に真面目な主張をしていて驚いた記憶があります。 今回の当選を受けて、マスコミでも話題を集めていますが、今回のスーパークレイジー君の当選には「驚いた」「ウケる」といった要素だけではなく、日の選挙や民主主義を考える上での重要な問題が含まれていると考えるので、以下、2つの面から考えてみたいと思います。 1. 日の地方議会の選挙制度の問題 今回の戸田市議会議員選挙の結果は以

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  • 小熊英二、樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』 - 西東京日記 IN はてな

    ここ最近話題になっている「右傾化」の問題。「誰が右傾化しているのか?」「当に右傾化しているのか?」など、さまざまな疑問も浮かびますが、書はそういった疑問にさまざまな角度からアプローチしています。 実は、国民意識に関しては特に「右傾化」という現象は見られないが、自民党は以前より「右傾化」しているというのが、書の1つの指摘でもあるのですが、そのためか、執筆者に菅原琢、中北浩爾、砂原庸介といった政治学者を多く迎えているのが書の特徴で、編者は2人とも社会学者であるものの、社会学からの視点にとどまらない立体的な内容になっていると思います。 目次は以下の通り。 総 説 「右傾化」ではなく「左が欠けた分極化」  小熊英二 第I部 意 識 1 世論 世論は「右傾化」したのか  松谷満 2 歴史的変遷 「保守化」の昭和史――政治状況の責任を負わされる有権者  菅原琢 第Ⅱ部 メディア・組織・思想 1

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  • 西川賢『分極化するアメリカとその起源』 - 西東京日記 IN はてな

    現在行われている大統領選挙やその他の政治的な風景を見ても、アメリカ政治が「分極化」していることは容易に見て取れます。共和党と民主党では、その世界観や生活スタイルまですべてが違ってしまっている感じです。 しかし、以前のアメリカでは政党の規律は弱く、議会などでも党派を超えて活動する議員はたくさんいました。ですから、以前はこんなにも分極化はしていなかったのです。 では、一体いつからアメリカ政治の分極化は進んでいるのでしょうか? 書の問はこのようなものです。アメリカ政治をさかのぼっていくと、2009年から始まったティーパーティー運動、さらにさかのぼって、1994年の中間選挙でギングリッチが掲げた「アメリカとの契約」、さらには1980年のレーガンの大統領選挙での勝利ときて、さらにニクソンの南部戦略あたりまで分極化の起源は思い浮かびます。必ずしも「保守」政党というわけではなかった共和党が「保守」の

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  • ピーター・テミン『なぜ中間層は没落したのか』 - 西東京日記 IN はてな

    著者は著名な経済史家で、経済学の立場としてはケインジアンだといいます。そんな著者が「なぜ中間層は没落したのか」というタイトルのを書いたというと、近年の経済の動きと格差の拡大を実証的に分析したを想像しますが、書はかなり強い主張を持った論争的なです。 現在、アメリカの社会は左右に分極化していると言われますが、著者は上下の分極化を指摘しています。アメリカの社会は上20%(書はFTE部門(FTEは金融(Finance)、技術Technology)、電子工学(Electronics)の頭文字)と呼んでいる)と下80%に分極化し、共和党はもちろん、民主党も基的には上20%の代表になっているというのです。 そして、現在のアメリカはアーサー・ルイスが途上国の経済を分析するときに使った二重経済のモデルで説明できるというのが書の主張になります。 少し陰謀論的な印象を受けるところもありますが、7

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  • 木下衆『家族はなぜ介護してしまうのか』 - 西東京日記 IN はてな

    「家族はなぜ介護してしまうのか」、なんとも興味をそそるタイトルですが、書は、認知症患者のケアにおける家族の特権的な立場と、それゆえに介護専門職というプロがいながら、家族が介護の中心にならざるを得ない状況を社会学者が解き明かしたになります。 書は専門書であり、イアン・ハッキングや「概念分析」の考えを援用しながら認知症と介護について分析したりもしています。ただし、多くは分析は当事者の実際の声を拾いながら行われており、社会学の難しい概念がわからなくても介護経験者などには「わかる」部分が多いのではないかと思います。介護問題が身近になくても、対人援助職についている人などは「わかる」と感じる部分が多いのではないでしょうか。 また章と章の間にはコラムも挟まれており、実際に介護問題に直面している人はそこから読んでみてもいいかもしれません。 目次は以下の通り。 はじめに 序章 新しい介護、新しい問題

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  • 谷口将紀『現代日本の代表制民主政治』 - 西東京日記 IN はてな

    書では1ページ目にいきなり下のようなグラフが掲げられており、「この図が、書の到達点、そして出発点である」(2p)と述べられています。 グラフのちょうど真ん中の山が有権者の左右イデオロギーの分布、少し右にある山が衆議院議員の分布、そしてその頂点より右に引かれた縦の点線が安倍首相のイデオロギー的な位置です。 これをみると、国民の代表である衆議院議員は、国民のスタンスよりもやや右に位置しており、衆議院議員から選出された安倍首相はさらに右に位置しています。 どうしてこのようなズレがあるにもかかわらず、安倍政権は安定しているのか? それが書が答えようとする問いです。 書は、著者と朝日新聞社が衆議院選挙や参議院選挙のたびに共同で行っている「東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同調査」をもとに、各政党、各議員のイデオロギー位置を推定し、さらに有権者への調査を重ねていくことで、「小泉以降」の日政治

    谷口将紀『現代日本の代表制民主政治』 - 西東京日記 IN はてな