初出一覧を見ると、本書に収められた11編の歴史エッセイは、1966年から79年にかけて断続的に発表されている。「あとがき」で著者は、これは「私の鎌倉人物地図とでもいうべき一冊」であり、79年に雑誌「歴史と人物」に源頼朝を書いたとき、ようやくその白地図に色を塗り終えたのだと言っている。 それまで「頼朝を書かなかったのにはわけがある」と永井氏はいう。《これまでともすれば「頼朝が旗揚げして平家を倒し、幕府を開き、武士の世が始まった」というような言い方が通用していることに、嫌悪に近いこだわりを持っていたからだ。》 この本では、「源頼朝」をはじめ、「北条政子」、「頼家と実朝」、「後白河法皇」、「後鳥羽院と藤原定家」など、名の知れた人物以外に、「比企尼と阿波局」、「三浦一族」、「伊豆の軍団」、「武蔵七党」といった、歴史通でなければおそらく目を留めることもないような人物群像にも光を当てている。「北条義時