20代から30代にかけて、私は10年間療養生活を送っていました。 大学院を中退し、一日に何度も薬を飲み、ベッドで横になる日々。 そんな療養生活の初めのころに見た夢が、今も心に残っています。 夢の中で私は、必死に何かから逃げていました。 森の中の道なき道。 スカートは泥だらけ。 必死にただひたすら草木をかき分けて逃げていました。 私を追っているものが間近に迫ってきました。 醜いたくさんの小人たち。 ニタニタと笑いながら大勢の小人たちが私に向かってきます。 「もうダメだ」 そう思ったとき、地面にあいた小さな穴に私は落ちました。 最初は物凄いスピードで落ちていましたが、次第にゆっくりになり、落ちている縦穴が広くなっていきます。 ゆっくり落ちながら辺りを見回すと、穴の壁はネズミ色の石。 地上の騒々しさとは違い、音もなくシンと静まり返った穴の中。 しばらく落ちていると穴の底が見えてきました。 石畳の