「因幡の白兎(うさぎ)の話を知っていますか」 頼まれた講演先などで、最初に言うのはこの言葉である。 「嘘をついて皮をはがされた白兎を、大国さまが助ける話ですよね」 たいていはこうした反応が返ってくる。 「では、大国さまはなぜ、大きな袋を肩にかけて現れるのでしょうか」 そう問いを重ねると、これもたいていは「知らない」となる。それを待って、謎解きから進めていくと、どこの会場でも熱心に聴いてくれる。一昨年夏から始めた「日本人の源流 神話を訪ねて」などの神話連載が好評で講演依頼が増え、その経験の中で見つけた、いわば「勝利の方程式」がこれである。 が、この方程式が通じない場所がある。出前授業で行く中学校や高校だ。最初の問いかけに返ってくるのは決まって、「知りません」。仕方なく、白兎が、わにをだまして海を渡る場面から話を始める仕儀となる。日本の子供なら、因幡の白兎ぐらい知っててくれよ、と心の中で毒づき