ブックマーク / readingcw.blogspot.com (5)

  • 『帝国の慰安婦』における日本免罪論について

    『帝国の慰安婦』を特徴づけているのは「日に対し『法的責任』を問いたくても、その根拠となる『法』自体が存在しない」(319ページ)という認識である。この認識は書の各所で繰り返されている。「〔慰安婦の〕需要を生み出した日という国家の行為は、批判はできても『法的責任』を問うのは難しい」(46ページ)、「強姦や暴行とは異なるシステムだった『慰安』を犯罪視するのは、少なくとも法的には不可能である」(172ページ)、「日国家に責任があるとすれば、〔人身売買を〕公的には禁止しながら実質的には(個別に解放したケースがあっても)黙認した(といっても、すべて人身売買であるわけではないので、その責任も人身売買された者に関してのことに限られるだろうし、軍上層部がそうしたケースもあることを認知していたかどうかの確認も必要だろう)ことにある」(180ページ)、「『慰安』というシステムが、根的には女性の人権に

  • 『帝国の慰安婦』における証言者の“水増し”について

    『帝国の慰安婦』の特徴の一つは、1973年に刊行された千田夏光氏の『“声なき女”八万人の告発−−従軍慰安婦』(双葉社。講談社文庫のタイトルは『従軍慰安婦』。以下それぞれ双葉版、文庫版と表記)を高く評価し、また大きく依拠している点にある。例えば朴裕河氏は「そしてこのような千田の視点は、その後に出たどの研究よりも、『慰安婦』の質を正確に突いたものだった」(25ページ)とし、「千田のが朝鮮人慰安婦の悲劇に対して贖罪意識を持ちながらも、それなりに慰安婦の全体像を描けたのは、彼がそのような時代的な拘束から自由だったからだろう」(26ページ)としている。「そのような時代的な拘束」とは、彼女によれば、「慰安婦」問題の発生以降「慰安婦」についての発言が「発話者自身が拠って立つ現実政治の姿勢表明になったこと」を指す。このことを踏まえて、次の一節をお読みいただきたい。 千田のには一九七〇年代初め、今から

  • 朴裕河『帝国の慰安婦』読書会報告(2)

    (承前) 3. 韓国版との異同 一部の参加者からは韓国語版との異同についても指摘があった。例えば韓国語版では「挺身隊」に関する記述を行う際に日語版ウィキペディアに依拠していること、韓国版では日の支援者について否定的な記述がなされているが、日語版では変えられていることなどである。さらに、日語版では弁明的とも思える加筆が多数あり、それが先に述べたような論旨のつかみにくさに拍車をかけている、という指摘もあった。 4. 「慰安婦」問題の解決に関する著者の主張について 書は「日韓併合=合法」、「日韓条約で解決済み」という前提に立っているが、もしそういう前提に立つなら国民基金がなぜ必要だったか、さらなる「解決」がなぜいま必要なのかが、理解できなくなってしまうのではないか、との指摘もあった。書を読んだ日人がさらなる「謝罪」の必要性を感じるか、疑問である、とも。 また「慰安婦」問題を日韓の文

  • 朴裕河『帝国の慰安婦』読書会報告(1)

    15年2月17日に当会が開催した、朴裕河『帝国の慰安婦』についての読書会では、金富子氏(植民地朝鮮ジェンダー研究)による報告に続いて参加者による意見交換が行なわれた。主な意見を主題ごとに再構成し、2回に分けて紹介する。また、当日は『帝国の慰安婦』の内容以外に同書が受容される日の文脈(金富子氏の報告でも問題にされている)についても参加者の関心が集まった。この点については過去の記事「日軍「慰安婦」問題の現在と『帝国の慰安婦』」をご参照いただきたい。 1. 方法論上の問題と先行研究の軽視 著者の朴裕河氏は『帝国の慰安婦』において「『朝鮮人慰安婦として声をあげた女性たちの声にひたすら耳を澄ませること」を目指したとしており、自分が紹介する「声」が支援運動によって隠蔽されてきたとしている。日において『帝国の慰安婦』が好意的に受けいれられている理由の一つもそのような「声」が新鮮なものと思われたから

  • 熊谷奈緒子『慰安婦問題』についての補足:先行研究の扱い方における不備について

    新書という媒体で出版された書は日軍「慰安婦」問題について詳しい知識を持たない、一般の読者を主な読者層として想定していると考えられるが、ならばこそ河野談話(1993年)発表以降の研究成果については幅広く目配りをして、読者に日軍「慰安所」制度についてのより正確な歴史記述を提供することが期待される。『朝日新聞』が「慰安婦」問題報道の一部を撤回したことなどをきっかけに新たにこの問題に関心を持った読者が、2014年に刊行された書で最新の知見が紹介されていることを期待するのは当然であろう。しかしながら、極めて重要な先行研究のいくつかが書では完全に無視されてしまっている。 その代表的なケースとして、永井和・京都大学教授の業績が無視されていることに由来する問題点を指摘しておきたい[i]。 日軍「慰安所」制度とドイツ軍の軍管理売春制度とを比較した箇所で、同書は秦郁彦の「日軍の慰安所関与は、輸送

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