1.イラク石油の歴史 (1)神の息吹 石油がもたらす富を神の恵みと考えられる国は幸福である。おうおうにして石油は紛争をもたらす呪いとなる。イラクの石油開発の歴史が、その例である。中東における大規模油田の発見は1908年のイランに始まる。イラン南西部、現在のフーゼスタン州のマスジェデ・スレイマ―ンで石油が噴出し、それはあたかも神の息吹のようであったと伝えられる。 マスジェデ・スレイマーンは、ペルシア語で「ソロモンの宮」を意味している。ここには古代からゾロアスター教徒の神殿があった。ゾロアスター教は古代のイラン高原に発し、少数とはいえ現在にまで続く宗教である。この宗教が中国に入って拝火経として知られるようになった。この宗教が火を神聖視するからである。神殿では途絶えることなく火がともされる。火を燃やし続けるのは乾燥地では大変な負担である。そもそも燃料となる樹木が少ない。そこでゾロアスター教徒たち