ブックマーク / musashimankun.hatenablog.com (20)

  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第31回「壮絶な空中戦の末にプロレスのマットに沈んだヒゲさん・・・」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    ジョイと竜乃湖を目指して走る ヒゲさんは夕闇の林の中を「竜乃湖」を目指して走る。後方からジョイがハアハアと息を切らせながらついてくる。前足と後方の足はリズミカルに動く。 ジョイはヒゲさんの走る間隔には慣れている。もうこの坂道を上り降りし始めて2年半が過ぎた。ジョイがヒゲさんに出会ったのは3年前だ。 ヒゲさんはこの地に引っ越してきてからすぐにペットセンターへ行き、ジョイを見つけてきたのだ。ジョイのような大型犬に手綱をつけずに散歩するのは、都会や人の集まる所では決してできることではないが、幼い頃からこの木々がうっそうとする土地で、厳しく訓練してきたジョイなら大丈夫だという自覚がヒゲにはあった。だから、成犬になってもジョイに手綱をつけたことはない。もちろん、ヒゲさんが散歩するコースは人が歩くような場所ではないが。 目の前に現れたある光景 やがて、ヒゲさんとジョイの目の前に「竜乃湖」が現れた。 夕

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第26回「二人の逃避行 異常気象にやられねえよう、『竜乃湖』で拝むっけ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    黄色のランドクルーザーでやってきた 髭面男のヒゲさんから「竜之湖」に誘われた徹は、風呂から上がるとはなえにその旨を伝えた。ヒゲさんが自分の車で「もとずろう温泉」まで迎えに来てくれるという。 近くのうどん屋で昼飯をとった徹とはなえは、午後1時に温泉の前でヒゲさんが来るのを待った。 徹がはなえと立ち話をしていると、やがて約束の時間の5分前にヒゲさんの運転する車がやってきた。 黄色のランドクルーザーでヒゲさんらしい車だと徹は思った。「竜之湖」は温泉から徒歩で歩いても大人の足で20分程だというからそう遠くではないが、はなえのことを考えてヒゲさんが車で迎えにきてくれたのだ。外見はクマのような感じがする男だが、外見に似合わず気の利く男だと感心した。 「ま、見るだけでもいいから」 ヒゲさんは車を運転しながら言った。 「へええ、そんな所があるのかい」 後方座席に座ったはなえが、大きな声で言った。しばらく温

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第25回「二人の逃避行 ネッシー?かつて本当に竜が住んでいた」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    かつて当に竜が住んでいた湖 徹はあまり髭ずらの男とは深い話はしない方がいいと直感し、適当に挨拶した後でお湯から上がった。朝に温泉に浸かることなどないから、少し頭がクラクラした。 近くの洗い場の椅子に座り、前のシャワーを出す。一瞬、冷たい冷気が身体を包んだ。すぐにお湯が出てきた。そのままお湯加減を調整しながら身体を洗い、お湯をかける。もう一度、お湯に浸かろうか考えた温泉の手前には、ちょうど、あの男が身体を洗い終えお湯に浸かろうとしている。 徹は見て見ぬふりをして、そのまま温泉から出た。自分の洋服を置いたロッカーを鍵で開け、バスタオルで身体を拭く。ふと、ポスターに目がいった。 「かつて竜が住んでいた 竜乃湖」と大きく書かれた湖の写真のポスターが壁に貼ってある。 「竜乃湖・・・・・かつて竜が住んでいた・・・・・」 徹はポスターに書いてあるコピーに目を通した。嘘じゃなかったのか・・・・少し悪いこ

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第23回「二人の逃避行 お湯に浸かり自分が自分でないような」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    カーテンを開けると木々一色だった 「温泉に入りたかったら入ってもいいけど、どうする?しばらく休む?」 徹は、「もとずろう温泉」の女将・いちこと社長のずんいちろに挨拶した後で、はなえに聞いた。 「そうだね。午前中はね」 はなえはゆっくりと返事した。 「しかし、旅館名がもとずろうで、社長がずんいちろさんってなんか面白いねえ」 はなえがクスクス笑う。 「なんかホームページに出てたけど。もとずろうさんのお父さんが、ここの温泉を掘り当てたらしいよ。で、今のずんいちろさんは3代目になるらしいね」 「へえーそうなんだ」 はなえが真顔になった。 「じゃあ、俺は軽く温泉にでも入るとすっか」 「そうかい」 「夜はここでべるけど。昼は外になるから。すぐそこにうどん屋があるからそこでいいと思う」 「じゃあ、しばらく休んで。昼前にでも呼びにいくから」 徹ははなえに言うと自分の部屋に入った。部屋は四畳半で窓の方が

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第21回「二人の逃避行 行き先は、あの『もとずろう温泉』」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    さあ着いたよ。尾花だよ コーヒーを飲み終わった後で徹とはなえはトイレに寄り、駅のホームで電車を待った。 やがて「もとずろう温泉」のある尾花駅行きの電車が予定通りに来た。 二人は電車に乗ると座席に座り目を閉じた。話していると冗談を言うはなえだが、さすがに70代後半となると、近場のプチ温泉旅行とはいえ慣れない早朝の行動は楽ではない。電車は居眠りする二人を起こさない安定した速度で走りながら尾花駅に着いた。 「着いたよ。尾花だよ」 徹は隣で居眠りするはなえに声をかけた。少し驚いた様子ではなえが目を覚ました。 「早いねえ。もう着いたかい?」 リーン、やがて出発の高い音が駅構内に響く。 「さ、行くよ」 徹ははなえの右手を握った。 「よいしょ。もう着いたの。寝てたよ」 はなえは少し寝ぼけたような口調になった。 土曜日の午前9時過ぎ、既に尾花駅構内は登山客で賑わっている。徹はまだ、会社に正社員として勤務し

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第20回「二人の逃避行 あったかいコーシーを飲みながら」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    あんた、コーシーは好きなの 土曜日早朝のコーヒーショップに客はほとんどいない。軽音楽が店内を華やかな雰囲気にしている。 「おまちどうさま」 徹ははなえと自分のコーヒーをトレーに乗せて運んできた。 「温泉は午前10時過ぎから入れるようだから。着く頃にはいい時間になると思うけど、ま、急ぐことはないから。着いたら周りを少し散歩でもしようか」 徹がコーヒーをはなえの方に置いた。 「砂糖は入れるでしょう」 徹ははなえのコーヒーカップにステックシュガーを入れた。そういえば、徹も数十年前には、若かった多恵子と喫茶店でコーヒーを飲んで将来について話をしていた。まだ希望に満ちていた頃だ。 「コーヒーはおいしいね。はなえさんは好きなの?」 「よく飲むよ。インスタントだけど。あんたはどうなの?あったかいコーシー」 「コーシーって・・・・好きだよ」 徹ははなえのジョークに気づいた。たまに冗談を言うのだ。 「うーん

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第18回「二人の逃避行~それでも見つかるわけにはいかない」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    土曜日、「ラッキー園」の近くで 結局、その日、徹はスーパーではの多恵子には会わずに自宅に戻った。マイ子にもに会いに来たとはいえず、夕方のレジ打ちで忙しい多恵子に会ったところで迷惑な顔をされるだけだと思ったのだ。マイ子と別れ仕方がなくスーパー内を一周した後で、そのまま自宅に戻ったのだった。 翌日の土曜日の早朝、徹は「ラッキー園」近くの駐車場にバイクを止めた。もちろん土曜日は仕事は休みになっているから、中に入る必要はなかった。 やがて、「ラッキー園」入口から、一人の老婆が歩いてきた。すぐに徹にはその女性が町田はなえだということが分かった。早朝にもかかわらず、はなえは午前六時という時間に遅れることなく「ラッキー園」から出てきた。今年で78歳になる彼女は、園長に長男夫婦に会いに行くと嘘をつき、今日の外出許可を得たという。 「おはよう、大丈夫だった?」 徹は声を潜めて聞いた。はなえは寒そうだった

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  • 「闇が滲む朝に」🐏章 第19回「二人の逃避行 ちみの瞳に恋してるってか!?」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    秘めた二人の逃避行? 「この前に外出したのはいつだったかねえ。夏ごろだったかなあ」 はなえがタクシーの窓の外を眺める。 「8月頃・・・・?」 「そうだね。確か・・・・」 タクシーが信号待ちで停車した。 「確か息子夫婦と事したんだね・・・・」 再び、タクシーが動き出す。 「息子さんたち、たまに来るの?」 徹が聞いた。 「そう。たまにね・・・・」 やがてタクシーが「キツネ駅」近くの繁華街に入った。繁華街の街燈で一瞬、車内が明るくなった。 「その辺で止めてください」 「キツネ駅」に通じるエスカレーターの前でタクシーが止まった。徹が料金を確認すると運転手に千円札を渡した。 「はい、710円ですね」 運転手は言いながら財布の中から小銭を集めておつりを返した。 「慌てなくていいから」 徹はタクシーを降りるはなえに声をかけた。 「よっこらしょ」 「忘れ物はないかい」 徹が再度、タクシーの後部座席を確認

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第17回「えっ?スーパーで偶然に会った人が」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    夕方のスーパーで発見 徹の・多恵子が働くスーパー「モリダクサン」は1階が品売り場で2階には衣類や日用雑貨を中心に販売している。店舗によって面積や形態も違うスーパーだが、「モリダクサン」は大型の物とは違い品に特化した店舗だ。 だから平日とはいえ、もちろん夕方は夕飯用の買い物をする主婦たちで混んでいる。 店内には魚類を販売する店員の大きな声が響いている。 「さああ、らっしゃい、らっしゃい」という、男の喉の奥から出る、あのだみ声のような大きな声だ。この声は、どんなに時代が変わっても、スーパーではずっとなくなったことがないんだろうと徹は思う。そう、いつの時代もずっとなくならないものはあるんだよ。 徹はコンビニエンスストアには、今も昼を買いによく行く方だが、スーパーはあまり行ったことがなかった。事は多恵子が作るから、買い物も多恵子が一人で行くことがほとんどだった。 店内で偶然に会った人に驚

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第16回「一日、一日を精一杯に生きるということ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    ふたたび、「戦時下を思え」 夕方の5時半過ぎ、徹はスーパー「モリダクサン」の方に向かいながら思う。いつもなら一人でテレビを見ている時間帯だ。テレビといっても特に自分が見たい番組を見るわけではない。 ただ、コーヒーを飲みながら、ぼんやりとニュースを見る機会が多かった。最近では阪神・淡路大震災のニュースを覚えていた。 「辛い時は戦時下を思え・・・・」 また春香さんの言葉が徹の脳裏をよぎった。 大きな震災はまさに戦争状態と変わらないだろうと徹は思う。多くの人が犠牲になるのだ。当に被災した人たちは生きるか死ぬかを、経験するのだから。 震災国・日で生きるということ 阪神・淡路大震災が発生して25年が経過した…。そういえば東日大震災も発生してから12年が過ぎている。日では東北で大きな地震が発生して以降も、毎日に全国で地震のない日はないし、大きな災害も後を絶たない。ここ数年は夏になると大きな台風

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章第15回「家族の冬風には、冗談も笑っていられないなあ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    すれ違いの増えた家族 徹が図書館を出る頃には午後4時を過ぎていた。そのまま、「ラッキー園」に戻り駐輪場のバイク置き場にいく。徹はいつも「ラッキー園」まで50㏄のバイクで通っているのだ。 ヘルメットをかぶりながら、徹はついさっきに会った春香さんといい、「中華屋・ぶんぺい」で昼間からビールを飲んでいた五十六といい、清掃の仕事をし始めてから、自分は妙というか何か変な、今までに会ったことない人物に会うようになったことに気づいていた。 「無我・・・・か。んなこといってもなあ。自分は自分だし現実は現実だし」 春香さんの言ったこといが、もう一歩、理解できないまま、徹はバイクのアクセルを踏んだ。ここから15分も行けば自分の住む住宅に着く。自宅に戻ってもまだの多恵子も帰宅していない。 そういえば、近くのアパートに住む和樹とは最近は会うこともほとんどなくなった。1週間に1度は実家に帰宅しているらしいが、多恵

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章第13回「辛い時は戦時下を思え、と春香さんは言った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    図書館であの人に再会 「初心・・・・大事だよなあ、やっぱ」 徹は控室の壁に貼ってある「初心忘るべからず」の言葉を頭の中で反芻しながら「ラッキー園」の外に出た。 午後3時過ぎ、冬の空は晴れているとはいえ、どこかグレーの色合いを漂わせつつあった。この時間帯は「中華・ぶんぺい」には暖簾は掲げられていない。午後5時までは休息時間なのだ。 徹は向かい側の道路に「中華・ぶんぺい」の店舗を見ながら、そのまま真っすぐに●●駅へと向かった。10分も歩けば駅に到着するが、「ラッキー園」で仕事を始めてから、徹は駅近くの図書館に寄ることが増えていた。新聞を読めるからだ。 図書館はまだ建築されてそれほど時間が経過していないのか、新築の匂いがする。館内には学生や主婦や子供、そしてなぜかおじさんたちが多い。おじさんたちには定年した人や失業中の人が混じっているだろうなと徹は思う。 徹はいつものように新聞がストックしてある

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第11回 「夢をバクに食べられたい」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    新年あけましておめでとうございます。 年もよろしくお願い申し上げます。 令和2年 元旦 天野響一 五十六は一体、何者なんだ 徹は目の前で何が起こったのか分からなかった。一瞬、自分はかまいたちに切られたのではないか、顔面の左ほおに強烈な痛みを感じたのだ。あと、ほんの数ミリの差だった。何とか徹の顔は無傷のままだった。 徹は五十六の背中を見ながら、ただ立ちすくむだけだった。 「・・・・・・・な、なんだ一体」 徹はゆっくりと五十六とは逆の方向に歩き始めた。 「キタキツネビル」で働く高戸七八の兄となれば70歳近い年齢の筈だ。しかし、五十六の顔を見ても到底70歳には見えない。もちろん、ついさっき、自分の目の前をぶっ飛びすぎた足蹴りの伸びも、老人といわれる領域の人間の技には見えない。真昼からビールを何杯も飲む五十六は何をやっている人間なのか・・・・・。 徹は信号を渡ると左に進み「ラッキー園」の門を過ぎ

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第12回「絶望するなかれ。今が大事よ。身体が動けば何でもできる」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    身体が動かないと苦痛になる仕事 徹は目を覚ますと、ずずっと椅子からずれ落ちそうになった。な、なんだ、今の夢は・・・。そのまま椅子に座ったままで、ぼおおっとしていた。いつもゴミの回収をし終わるのが午後2時過ぎだから、終業時間の午後3時までは1時間ほどの余裕ができるようになっていた。 来なら、施設内を見回って汚れているところがないか確認すべきなのだが、そこまで徹は仕事熱心ではない。一般的には1時間も余裕のある現場などないに等しい。しかし、ここはなぜか時間的に余裕があった。ま、それは徹の仕事の様子を見なければ、どんな感じか分からないという会社側の思惑でもあった。ま、信じられていないのよ。 他の女性二人はしっかりと業務をこなす方だ。が、実は男性でしかも、それなりの大学を出て、徹のような正業に就いきていてある程度の年齢に達している者には、身体が動ない人間が多い。 まだ年齢的に若かったり、継続して何

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第10回「ぶうん!! ん?突然の五十六の足蹴りに怯む」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    中華屋の客はほとんどが建設作業員 「中華屋・ぶんぺい」はいつの間にか満席になった。客のほとんどが建設作業員だ。 騒がしい中で徹は「ちゃんぽん麺」をすすりながら目を閉じた。熱いのだ。 「弟さん、クリーンモリカミで働いてどれくらいになるんですか」 徹は五十六の顔を見た。 「七八か、さあ、どれくらいかなあ。結構、長いんじゃねえの。『キタキツネビル』で働いているよ」 五十六がぐびっとビールを飲む。 「『キタキツネビル』には面接にいきました」 徹が水を飲む。 「そうか。でかいビルだよな。そこでは仕事してないのか」 五十六がくみ子に手招きすると空のビールグラスを渡した。 「ええ、面接で『ラッキー園』に行くように言われました」 徹が蓮華でスープを飲む。 「そこの高齢者施設だろ」 五十六が徹を刺すような目つきで眺める。 「ええ・・・・」 徹は目をそらすようにラーメン鉢の麺をすすった。 おもしろいか、仕事

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第9回「昼間からビール三昧の五十六の鋭い眼光にヒヤリ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    昼から生ビールを飲む顔の大きな男 徹は文平の言う、たかど、という名前を聞いたことがなかった。 「たかどさん・・・・ですか」 「確か、『キタキツネビル』で働いているって言ってたな」 顔の大きなベートベン似の男が言った。 「『キタキツネビル』ですか・・・・」 クリーンモリカミは●●市内では「ラッキー園」のほかに「キタキツネビル」や「エゾリスビル」で清掃業務を行っているが、徹は「ラッキー園」でしか仕事をしていないから、「たかど」という人物のことも顔も知らないのだ。 アルバイトのくみ子がベートベン似の高戸五十六に焼き肉定を運んできた。 「ありがちょう、これおかわり」 五十六はくみ子に空になったビールジョッキグラスを渡す。 昼からビールか・・・・いいなあと徹は思う。 「生、おかわりです」 くみ子がグラスをカウンターの上に置いた。 「ちゃんぽん一つ、お願いします」 徹がくみ子に注文した。 「中華屋・

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第8回「ジャジャジャジャーン、ベートベン男と会った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    中華屋で会った顔が大きい男 徹は「ラッキー園」を出ると道の向かい側の「中華屋・ぶんぺい」の暖簾が出ているのを確認した。信号が青に変わったのを確認すると、急ぎ足で歩道を渡る。 「こんちわ」 「中華屋・ぶんぺい」の戸を開ける。ガラガラと音を立てて開いた。まだ中には客は1人しかいない。午前11時40分過ぎ、これがあと数十分もすればいつの間にか満員になる。ほんの20分の差で待たなければいけないか待たなくてすむか。 「どうも、いらっしゃい」 いつもの文平の声が店の奥から聞こえた。昼間は厨房の中に2人、客対応に1人の3人で対応する。厨房の中では文平の・ゆう子、接客はアルバイトの井戸くみ子が手伝っている。くみ子はまだ30歳になったばかりで、店の近くのマンションに住む主婦だ。 もちろん、昼は「中華屋・ぶんぺい」にとって忙しい時間帯だから、いつもこの時間帯はほとんど徹が文平と話すことはない。徹も店に置いて

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第7回 「中華屋の文平が宝くじを当てた理由」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    昼飯は中華屋のぶんぺい しばらくして伸江に続き明子も控室も出た。高齢者施設「ラッキー園」の午前中の清掃の仕事はこれで一段落する。午前11時40分過ぎ、徹はクリーンモリカミのスタッフが常駐する控室を出ると、そのまま施設のエントランスへと向かった。 午後からは徹がゴミの回収をする。回収を終えるとこれといった業務は終了する。大型のポリシャーがけやワックス業務などの定期清掃は数か月に数回、土日を使って専門のスタッフが行う。この日、徹は実務は行わないが手伝いをする。つまり、現在の徹の業務は清掃の中では初歩的なものになる。だから、ベテランの明子のチェックが入るのだ。仕事を始めて3か月程度だから仕方ない。 徹は「ラッキー園」のエントランスを出ると歩いて5分ほど先の「中華・ぶんぺい」に向かった。昼はここで中華か、コンビニで弁当を買ってべる。中華店のメニューはまあまあ、うまいといったところだが、何より店

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第6回。「かえるぴょこぴょこ 、超早口で仕事も早い人」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    仕事も早いが話しぶりも早い人 「とにかく、明日、チェックするから、綺麗に磨くのよ」 明子は話を戻すとお茶を飲んだ。 シングルマザーの飯山伸江も戻ってきた。 「お疲れさまです」 伸江はいつもの早口で言うと控え室奥の自分のロッカーの方に向かう。 「おつかれ」 明子が湯飲み茶わんを両手で支えながら伸江のいるロッカーの方を見た。 「お茶、飲むかい」 カーテンで遮断されたロッカールームで着替え始めた伸江に聞いた。 「あ、今日は大丈夫です。すみません」 「今日はテニスの練習か」 「ええ、すみません」 ロッカーの方から伸江が返事した。 「ノブちゃんも何かと忙しいね。お茶くらい飲んでいけばいいのに」 「また、今度、いただきます」 伸江が奥から出てきた。 「シングルだし、もてるだろうね」 明子が冷やかす。 「いえ、いえ、もう年ですから」 とはいえ、伸江はテニスをやっているせいか実際の年齢よりは若く見える。清

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第4回「渡り鳥のように飛び続けることができるか」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    渡り鳥の飛来に感謝する 徹はカートから落ち葉の入った90ミリリットルのビニール袋を取り出し、高齢者施設「ラッキー園」の庭の隅にある横用具入れ隣のゴミ収集倉庫に置いた。 ピーッ、ピピピ、どこからかツグミの鳴き声が耳に届く。 目の前に広がる青い空と黄色い葉が広がる庭を眺めながら、ツグミはなぜ、日に飛んでくるのかと考えたりする。ま、暇なんだ、ようは。 そういえば、ツグミに限らず、決まって冬になると日に飛来する渡り鳥たちは多い。 徹は若い頃に新潟市内の佐潟でハクチョウを見たことがある。偶然に出かけた湖だった。このハクチョウは冬になるとシベリアやアイスランドから飛来するのだ。ツグミは確か中国あたりからだった。 なぜ、渡り鳥は長い距離を旅することができるのだろう。太陽や月、地場のエネルギーの変化を敏感に察知して移動するらしい。 今年もツグミやハクチョウが変わらずに、日に来てくれることに感謝しなき

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