ソーカル事件を超えて ジェームズ・ロバート・ブラウン 青木薫訳 「科学者にとって科学哲学の無益さときたら、鳥たちにとっての鳥類学と大差ない。(Philosophy of science is about as useful to scientists as ornithology is to birds.)」これはリチャード・ファインマンの警句とされている。だとすればもう何十年も前のセリフなのに、時を経て理系・文系の科学観の相互理解が進むどころか、科学者の側にはファインマンの言葉そのままの皮肉な見方が、科学論者の側にはそれに対する諦念が、隔絶したまま凍りついてしまっていないだろうか。『なぜ科学を語ってすれ違うのか』は、そんな問題意識から翻訳出版に至った本だ。 本書には一見あたりまえのようにも見える二つの指摘が込められている。ひとつめは、科学哲学・科学論の研究が、科学者とは違う立場から「科学