『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』によって、『青いパパイヤの香り』、『シクロ』、『夏至』などでも充分に堪能できる、質の高いアートフィルムとしての存在価値の多くを担保しつつ、しかしまたそのイメージのバランスを巧妙に破壊しながら、弱々しさを含む強靱さや複雑さ、演出的なダイナミズムをも手に入れ、現代で最も注目すべき作家となったトラン・アン・ユン監督の次回作が、村上春樹の「ノルウェイの森」だということを聞いて、意外に思ったのは、その『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』公開時のことだった。 まず直感的に懸念したのは、このトラン・アン・ユンの、革新的であろう新作が、観客の無理解からくる悪意・偏見(とくに日本の)にさらされないだろうか、ということだった。 これは、「偉大な村上春樹文学に、外国人監督が果敢に挑む」という、偏った図式が流布されかねない事態になるように思えたし、事実、私の懸念はその通りのものとな