最近の精神科の教科書は知らないが、昔の教科書には統合失調症の妄想の例に必ず「天皇陛下が○○~」という内容が記載されていた。学生の時は授業や実習でしか患者さんを診ないので、それがどの頻度で出てくるのかわからなかった。 研修医になり統合失調症の患者さんに接するようになると、「天皇陛下」がどうこうなどと言う患者さんは滅多にいないことに気付いた。ほぼいなかったと言ってよい。 今から考えるとあの教科書が書かれた時代、つまりそれなりの年齢の精神科医の接する統合失調症患者さんの妄想とは、既に変わりつつあったのであろう。 その後、何年か診療をしていると、天皇陛下にまつわる妄想を言う人は稀ではあるが、全然いないわけではないことに驚いた。しかし教科書の内容とは少し異なっており、例えば「自分は天皇家の親戚の○○の御落胤です」と言ったこじんまりした妄想である。しかも同じようなことを言う人が他にもいるのである。 き