●渡辺守邦氏の研究された、版本書誌学の実験とその成果が単行本となって刊行された。この成果は、一通りの調査意識からは生まれない。私なども、近世初期の版本をかなり調査してきて、表紙の裏側に別の本の刷ヤレには何度か出会っているが、何か別の本のヤレを補強に使用したナ、位で先に進んでしまっていた。そこに、ジッと目をこらし、その背後に鋭い視線を注いだのが、著者の渡辺氏である。 ●渡辺氏はこの紙背を見抜く視線の先から、これまでも多くの発見をされ、研究成果を得られたが、今回の文部科学省の科学研究補助金による研究「表紙裏反古を国文学研究資料して活用する方法の開発を目指す研究」は、それらを、客観的な研究方法として位置づけようとされたものである。敬服せずにいられない。 ●私は、渡辺氏の研究と、その成果に出会うたびに、天理大学の木村三四吾先生を思い出す。一冊の写本や版本を目の前にして、その資料をジッと見つめ、小さ