新潮文庫100年を記念して、新潮社は手づくりだった創刊時の文庫の復刻に取り組んでいる。 ゲーテ、トルストイなど西洋の名作を完訳、箔(はく)を押した豪華版で、5冊セットを限定出版する。 〈泰西名著の全訳〉〈未曽有の廉価〉と銘打った新潮文庫が創刊したのは、廉価本の円本ブームに先立つ1914年(大正3年)9月。トルストイ『人生論』(相馬御風訳)、ツルゲーネフ『はつ戀(こい)』(生田春月訳)など当代一流の文学者や若手翻訳家による海外名作の全訳6点を刊行した。 創刊文庫のサイズは、いまの文庫よりやや小型の四六半裁(94×135ミリ)で、平均200ページで25銭から30銭。あんパンが2銭、うな重が40銭の時代だから、やや高価だったが、表紙は孔雀(くじゃく)の絵柄など4か所に箔を押した愛蔵者向けの装丁。背表紙の色も各点異なり、本の上部の天にはハケで色を塗っていた。 復刻は、当時の製本工程をほぼ再現し、基