4.カザン・タタール人の民族形成 カザン・タタール人は、一言で言えば、金帳汗国から分かれて15−16世紀にヴォルガ川中流、カマ川と合流するあたりの地域に栄えた、イスラムを奉ずるカザン汗国の住民の後裔である。その版図の中核地域は今日のタタールスタン共和国に当たる。しかしカザン汗国の存在したのはわずか1世紀あまりである。それ以前の長い歴史があるのはもちろん、滅亡からもすでに450年を閲している。両者が単純に等号で結ばれないのは言うまでもない。 また、環境も違えば前史も異なるのだから、同じ金帳汗国からの起こりや、そこに由来する国のかたちをもつ他の諸「タタール」と違う、カザン独特のものは当然ある。それらの点に留意して見ていくことにしよう。 カザン・タタール人の歴史をたどることは、われわれが(自覚せぬ偏向教育の結果として)何気なくヨーロッパやロシア中心史観で眺めている民族や歴史の風景を、ステップから