はじめに 量子力学ではよく、「演算子はエルミートである」と仮定して議論を進める。そこで「エルミート演算子」あるいは「エルミート行列」について調べてみると、難解怪奇な数学理論についてはたくさん出てくるが、「ふーん。で、エルミートって、結局はどういうイミなの?」「行列がエルミートであることは、現実の物理現象とどういう関係があるの?」という部分については意外と調べても出てこない。 この記事では、私の個人的な考えではあるが、量子力学において「演算子(行列)がエルミートである」とはどういうイミを持っているのかを考察したい。 エルミート演算子の定義 まず、エルミート演算子の定義を確認しよう。 ある演算子(行列)がエルミートであるとは、自分自身と複素転置(エルミート共役)が等しいこと、すなわち が成り立つことである。 多くの量子力学の教科書では、このエルミート演算子の数学的定義と「以下、この本に登場する