「ヤバい神」 [著]トーマス・レーマー 本書は、旧約聖書(ヘブライ語聖書)への読書案内であり、「ヤバい神」とは、そこにあらわれる神のことである。私は中学生の時、初めて冒頭の「創世記」を読んで驚いた。そこに描かれた神は、「政治的正しさ」からはほど遠かったからだ。本書の原題の直訳は「わかりにくい神」だが、「ヤバい」という訳語は的確だと思う。 ヤバさの有名な例に、アブラハム物語がある。神は、高齢のアブラハムに息子イサクを授けるが、アブラハムの信仰を試す「試練」として、幼いイサクを生贄(いけにえ)に献(ささ)げるよう命じる。アブラハムは命令に従おうとするが、その信仰を認めた神が止め、イサクは助かる。この不条理な物語に対し、哲学者カントは、アブラハムはそのような非道徳的な命令を下す者が神であるはずがないと答えるべきだったと述べた。一方キルケゴールは、アブラハムの信仰を讃(たた)えた。この物語は、数多