親兄弟など肉親との関係に悩む人は多くいます。相手が他人ならば、関係を切り捨ててしまえばいい。しかし、容易に見離すことなどできないのが、肉親のやっかいさです。ましてや、昔のいい思い出なんてあれば、なおのこと。いまの不仲に対する罪悪感まで芽生えてしまって、つらい。 翻訳家でエッセイストの村井理子さんは、昨年、不仲だったお兄さんを亡くされました。突然の病死でした。村井さんのご両親は既に鬼籍に入っているため、弔い、役所での手続き、住処の始末などの数多の作業と、それらにまつわる物理的・金銭的な負担が、一気にのしかかることとなりました。 腹が立つ。しかし、整理しないわけにはいかない。村井さんとお兄さんの元妻・加奈子ちゃんが、協力し合って兄を弔い、その身辺を片付けていく5日間の奮闘を描いたエッセイ作品が『兄の終い』(現在7刷)です。 その冒頭部分を抜粋いたします。 プロローグ 二〇一九年十月三十日水曜日