篠房六郎「おやすみシェヘラザード」1巻 寝ても覚めても 小学館 ビッグスピリッツコミックス アサイ「木根さんの1人でキネマ」のヒットがきっかけなのだろうか、映画を語るマンガがここ最近目立っているように思える。映画もマンガも好きな私にとって、とても好ましい状況ではあるが、この映画の語り方というものは、マンガの語り方が様々あるのと同様、作品によってその色は異なる。「木根さん」の場合は一つの映画作品をきっかけに数人のキャラクターを巻き込んだ映画の知識や観た観ないによるマウント合戦がメインとも言えるし、連載は終わってしまったが安田剛助「私と彼女のお泊まり映画」の場合は映画の感想を通して主人公二人の友愛が深まっていく様子を丁寧に描き、麻生みこと「アレンとドラン」であれば映画はあくまでも主人公が出会う人々をキャラ付けする小道具の一つとなっている(だからといって映画愛がとても感じられる作品だ)。では篠房
服部昇大「邦キチ!映子さん」 ラブコメの萌芽 集英社 マーガレットコミックス 映画について語るマンガが増えて嬉しい昨今、その語り口に少なからず不満があったわけだが、 服部昇大「邦キチ!映子さん」は、 「邦画プレゼン女子高生」と簡潔明瞭に主人公のキャラクター設定を単純化したことで、好きな映画の説明をしているだけでキャラクターが成立する短編力とも言える効果を発揮している。彼女の話を聞く相手が洋画大好きな先輩高校生、さらにアジア映画大好きなキャラクターと、描き分けも明確とくれば、各々のキャラクターの役回りが瞬時に理解され、映子さんが面白いと力説する映画の数々が、どういうわけか、本当に面白いものに思えてくるから不思議である。 キャラクターが単純である故、物語も副題のとおり、映画の内容を説明・プレゼンするだけというシンプルさ、彼女の説明に先輩がツッコミを入れるという構図が自然と成立しているわけだが、
「よつばと!」14巻 眼鏡とリアリティ メディアワークス 電撃コミックス あずまきよひこ 眼鏡をかけたキャラクターといえば、それこそ枚挙にいとまがないが、その描かれ方には多くの共通点があるだろう。その最も大きな技法が眼鏡を白くして・光らせて目の表情を隠してしまうという演出である。これによりそのキャラクターが何を考えてるのかという表情を隠すことができる。あるいは何かよからぬことを考えているのではないか、本題とは別のところに真意があるのではないか、などと読者に考えさせるに十分な説得力ある描写になり、その例も枚挙にいとまがない。また、真面目な描写が続く最中、ストーリーの起伏としてコメディタッチの絵柄が選択され、キャラクターたちの表情がデフォルメされる、という場面にも多く出くわしたことがあるだろう。そうした場合、眼鏡は前述のとおり目を光によって遮って眼鏡があたかも目のように描かれ、キャラクターの表
阿部共実「月曜日の友達」2巻 太陽 小学館 ビッグコミックス たとえば、1巻95頁のこのコマを見てみよう。中央の白い円は何に見えるだろうか。周囲が真っ黒であることから夜空と判断し、月に見えるかもしれないが、それらを担保しているものは何だろうか。記号的表現や過去の読書体験や個人的な経験が、このコマを夜空と月と判断させたとしても、だからと言って、月だと断定する根拠には乏しい。 だが、この場面を読んだ人ならば、これは月ではなく白いボールであることが迷いなく判断できる。円が物思いしているように見えるフキダシの主も、誰であるか断定できるだろう。 さて、「月曜日の友達」で描かれる白い円は、このように白いボールである場合と、月である場合の主に二種に見当をつけることができる。実写であれば到底間違えるはずのない二つの物体も、マンガにおいては、どちらにもなりうる表現が出来るということだ。 1巻120頁のこのコ
阿部共実「月曜日の友達」1巻 少年の日の思い出 小学館 ビッグコミックス 中学一年の国語の教科書に多く掲載されている短編小説、ヘルマン=ヘッセ「少年の日の思い出」を覚えている方はいるだろう。蝶の収集を趣味とする主人公の少年が、もう一人の収集家の友達が思いがけず貴重な蝶を採集したことを知るや、いてもたっても居られずに彼の家に赴き、留守をいいことに標本を盗み見るも、突然の家人の帰宅に驚いて蝶をポケットに突っ込むと、粉々になってしまう。後日、謝罪に行くも、彼はきっぱりと冷たい言葉を言い放つのである…… 阿部共実の新作「月曜日の友達」を読んで、主人公の中学一年の少女・水谷が授業で読んだと言う小説が、それではないかと根拠もなく思った。どことなく暗い雰囲気を演出する阿部共実作品に、同じく暗い読後感の物語を予期せずにいられないからである。 冒頭の授業風景の構図にしてからそうである。文武に優れた姉を話題に
「ソラニン」第29話 ささやかな満足 小学館 ビッグコミックススペシャル「ソラニン」新装版収載 浅野いにお 連載終了から11年が経ち新装版として先頃上梓された「ソラニン」の巻末に彼らの11年後を描いた第29話が掲載された。 物語自体は主人公である芽衣子を中心に11年後のキャラクターの様子を描いている。もちろん読者として注目するのは、彼らがどのように変化し成長したかであろう。 ところが、今にもよだれをたらしながら真面目腐った展開を拒むような「デデデ」のキャラクター設定を「ソラニン」ではあまりに平凡すぎる芽衣子を登場させることに替えて、かえってその特徴のなさや変化のなさに、相変わらず作者は底意地が悪いなぁと旧友に再会したかのような図々しさで、読み進めたのである。 冒頭の宅配便の荷物を受け取る場面から、私は芽衣子の変化を目の当たりにしてしまったかのような錯覚に陥る。いや、それは確かに大きな変化で
秋★枝「恋は光」6巻 三人の力点 集英社 ヤングジャンプコミックス 恋をしている女性が光って見える主人公・西条をめぐる恋模様を描く秋☆枝「恋は光」も6巻に至り佳境に入った。 主人公の設定は当初こそブレが見られたものの、光って見える女性の条件を探る過程を通して、実際に光る女性の描かれ方にも一定の法則が見え隠れするようになり、読者のミステリ感を程よく煽り、次の展開への期待を生んでいた(否、そのブレも私の思い込みかもしれない)。 腐れ縁とも言える長い付き合いの北代、西城が好意を寄せている東雲、物好きから西条に近づくも彼と接していくうちに惹かれて好意を寄せていく宿木の三人の女性は、恋と光の関係性をさまざまに議論していく。対話が主となるこの物語において、光る女性の存在の意味の追求が、そのまま自分は西条をどのようにして好意を持つに至ったのか、彼から光っている見えるという自分はどう光っているいるのか・光
たかがサブカルの終わり 映画を語るマンガたち その2 麻生みこと「アレンとドラン」1巻 講談社 KC KISS マイナー映画を愛する女子大学生の主人公・林田さんが学生生活や知り合った仲間との交流を通して成長するさまを描く麻生みこと「アレンとドラン」は、語る映画の内容に彼女の表裏をなす自尊心と羞恥心を詰め込み、生きるよすがとしての映画・好きなものを好きだということの息苦しさと楽しさを描出する。 周囲からサブカル系(笑)と馬鹿にされながらも、単館映画が鑑賞できる喜びを隠すことなく映画を観まくっている学生生活も一年が過ぎていた。やがて話せる仲間が学内などで出来ると、そのこと自体が彼女は嬉しく、相手が親ほど年の離れたおじさんであっても自宅に押し入れられそうになっても、彼女は映画について語りたおすのである。 だが、こんな設定であっても中表紙から漂っている・そもそもはっきりと描写されている彼女の暗く俯
炎の友情 映画を語るマンガたち その1 マクレーン「怒りのロードショー」 KADOKAWA ここ最近、映画について語るマンガを読む機会が増えた。「木根さんの1人でキネマ」が筆頭かもしれないが、かの作品の邦画ディスリには苛立ちがおさまらないし年間100本観るとかいいながら、映画館ネタが少ないのも、結局はビデオでしか観てないんだろ、てめーら!! と謎の上から目線をかましてしまうくらいである。あるいは「私と彼女のお泊まり映画」は、初めから家で鑑賞する映画ビデオと割り切っているだけに好感を持てるものの、連載公開時のネタを絡ませにくいという点と、女友達同志の仲良いさまに時折振られる百合ネタ展開と映画ネタの具合がどちらも中途半端で、面白く読んではいるものの、いまいち自分の映画の熱量と合わない感じに物足りなさを感じてしまう。 そんななか、マクレーン「怒りのロードショー」は、広い意味で映画鑑賞の楽しさと語
※本稿は2014年の冬コミで頒布した同人誌の内容を横書き用に一部数字を修正し、たまたま見つけた誤字脱字も少し訂正していますが、基本的に当時のままです。執筆時は、まだ「STAND BY ME ドラえもん」はソフト化されていないので予告編から引用している マンガとアニメの境界線 「STAND BY ME ドラえもん」という愚行」 はじめに 興行的に大成功を収めた「STAND BY ME ドラえもん」だが、映画としての評価は芳しくない印象が強い。もちろん、多くの観客を動員した結果、ネットで調べただけでも、多くの方がこの作品に感動したという感想を拾い出すことが出来る。同時に、多くの批判も見受けられるのもまた事実である。 おそらく3DCGという技術面だけで見れば、あるいは映画で描かれた未来の世界観だけ見れば、この作品に好ましい評価を導き出せるかもしれない。けれども、一個の映画として鑑賞したとき、ある
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