“インドの街角で、よく高齢の男性―とくにバラモンらしい風采の男性―が、道端に唾をはく光景を見て、不愉快に思うことがある。筆者もはじめはそれを、たんに上位カースト者の他人を顧みぬ無神経で不遜なふるまいと思っていたが、やがてそれが、ヒンドゥーの浄・不浄観と関係があるらしいことに気づくようになった。ヒンドゥーは、人間が邪なことを考えたり、不浄な行為をなすとき、毒気が口中に集まって唾液となり、口を穢すと考える。そこで不浄な唾液をはきだし、あるいは口をすすぐ「アーチャマナ」が必要となる。道端で唾をはくのも、どうやらそれなりに理由があったのである。そして、ヒンドゥーの常として、アーチャマナはいつしか儀式として慣習化された―たとえば排尿後は四回、排便後は八回、食後は十二回、性交後は十六回、葬式のあとは二十四回、右手に水を掬い、神の御名を唱えながら口をすすぐ。そして、吐きだすときはかならず左側でなければな