君のマグカップは、ずいぶん小さかったのだな。 手にとって洗ってみて初めてそう思った。 君が帰らなくなってもう三日経った。 三日経って初めてマグカップを洗った。 ずいぶんといけない夜を過ごしたものだった。 君が「ココナッツの香りがする」と言ったことを、 ぼくはまだ解せずにいる。 「宇宙は一つの林檎であり、人間はその種子である」。 崩れかけたコンクリートの階段を下った。 砂浜には波が押し寄せた。 そして、引いた。 どこまでも淡い青色だった。 (空も、海も)。 一艘の舟が打ち捨てられていた。 まるで昔の名前のように。 あのとき競馬場にたなびいていた煙草の煙のように。 君は二度と帰らない。 君の夢のように帰りはしない。 おれは飛行機の乗り方も知らないし、 背中に羽根もはえていない。 どこかに飛んでいけたらいいのにな。 はい。 すべての馬は薔薇のために走り、 おれは追憶の香りの中を生きる。 すべての