ぼくは酒を嗜まないので、居酒屋やバーやクラブのたぐいにはほとんど行かない。数年に一度、誘われて行くだけだ。それでも一滴も呑まない。えっ、ちょっとぐらいはいいでしょうと言われるが、絶対に遠慮する。これでは誘うほうもつまらないだろうから、二度目のお誘いはめったにない。 こんなふうなので、居酒屋のおやじやバーのママやお店の別嬪さんたちとはほとんど知り合いがいない。一人、気にいっている水商売一族の娘が京都にいるのだが、この子はいまは某セーネンに首ったけで、その心は世の中からは見えないところにいる。 かくてワイナリーから一杯呑み屋にいたるまで、酒房にはとんと縁が少ないのだが、二つの理由でぼくの周辺には大学時代のころまでは、バーやクラブのママたちが行き交っていた。ひとつは家が呉服屋だったせいだ。とくに父が横浜元町で店を失敗するまでは、京都や東京や横浜の名だたる店のマダムやホステスに松岡呉服店の着物が動