その摩訶不思議な性質についての数学的な解明はさておき、真に驚嘆すべきは、黄金比が自然界の事物の基本的な構成に深く関わっていることだと、ラングドンは説いた。植物や動物、そして人間についてさえも、様々なものの比率が不気味なほどの正確さで1.618に迫っている。 「黄金比は自然界のいたるところに見られる」ラングドンはそう言って照明を落とした。 「偶然の域を越えているのは明らかで、だから古代人はこの値が万物の創造主によって定められたに違いないと考えた。古の科学者はこれを”神聖比率”と呼んで崇めたものだ」 「待ってください」最前列にの席にいる女子学生が言った。「私は生物学専攻ですけど、自然界でその神聖比率とやらに出会ったことがありません」 「そうかい」ラングドンはにっこりと笑った。「ミツバチの群れにおける雄と雌の個体数の関係について学んだことは?」 「ありますよ。雌の数は常に雄を上まわります」 「正