司馬遼太郎史観の問題点〜日本は昭和に入って堕落したのか 「小さな国」ではなかった日本 榊原英資 (財)インド経済研究所理事長、エコノミスト 司馬遼太郎の数多くの作品の中で、最も読まれているのは、おそらく「坂の上の雲」だろう。この小説の主人公は実在の人物、秋山好古、秋山真之兄弟と真之の親友正岡子規である。司馬はこの作品で、明治維新から日露戦争迄の30余年を「これほど楽天的な時代は無い」と評している。 「国家がロマン」だった日露戦争の時代 タイトルの「坂の上の雲」とは、坂の上の天に輝く一朶の雲を目指して一心に歩むがごとき当時の時代的高揚感を表したものだった。日露戦争とは官から民までが「国家が至上の正義でありロマンティシズムの源泉であった時代」の情熱の下に一体となって遂行された国民戦争であり、「国家の重さに対する無邪気な随従心の上にのみ成立した」としているのだ。又、日清、日露戦争期は戦争が多分に