繕い裁つ人(1) [作]池辺葵[評者]ササキバラ・ゴウ(まんが編集者)[掲載]2011年4月3日著者:池辺 葵 出版社:講談社 価格:¥ 620 ■装うことの意味を問い直す 服がテーマの作品というと、ついデザイナーやモデルが活躍する華やかなファッション業界を思い浮かべてしまうが、この作品の舞台はありふれた町の、こぢんまりとした地味な洋裁店だ。主人公は、この店を祖母から継ぎ、古びたミシンを使ってひとりでオーダーメードの服を作っている。彼女の作る服は、卸した店では人気が高く、すぐ売り切れる。しかし、その職人スタイルを決して変えないため、量産はできない。祖母の代からのご近所さんが行き来する日常的な空気の中で、ひっそりとミシンを踏んでいる。 なじみの客の多くは、昔からこの店で仕立てた服とともに、年を重ねてきた人たちだ。長い人生のさまざまな局面に、きちんと仕立てた服はいつも寄り添い、その節目を彩っ