近頃、ときどき「ワルラス法則」という言葉を耳にすることがあって、懐かしい気がするとともに、過去の様々な議論の成果がほとんど継承されていないことに残念な思いをしている。私が大学院生をしていた1970年代の後半は、ワルラス的な一般均衡論のパラダイムが(完成したがゆえに)活力を失い、それに代わって非ワルラス的経済学(Non-Walrasian economics)と呼ばれるような考え方が隆盛してきた時期だった。非ワルラス的経済学をめぐる議論の中には、ケインズ経済学の再解釈やそのミクロ経済学的基礎を問う議論も当然に含まれていた。 ケインズ経済学のミクロ経済学的基礎を考えるとすると、供給が需要を生むという「セイの法則」が成立することはないとしたケインズ的世界において、「ワルラス法則」をどう理解するかということが否応なしに問題とならざるを得ない。貨幣を含まない(あるいは、あらゆる財が実質的に貨幣として