はじめに 日本にも、ファイナンシャル・タイムスのマーチン・ウルフのような逸才が居ればというのが、年来の筆者の思いであり、本コラムでも、「日本にウルフはいない」以来、しばしば引用しているところだ。その新著の邦訳「シフト&ショック」が早川書房から出たのは、うれしい限りである。 その内容は、リーマンショックを起こした世界経済の構造的な理由を探り、衝撃によって政策や学説がいかに変わり、今後、どうすべきかを説いたものである。約450ページと、ちょっと長めで、世界経済に関する多少の基礎知識も必要ではあるが、ここから得られる見識は、実に豊かだ。 第1の物語 現実は複雑で多様なものだが、今の時代を単純化すると、こんな物語になるのではないか。まず、バブルが起こり、1000億円の土地が2000億円に値上がりした。企業は銀行から2000億円の融資を受けて購入し、地主は代金2000億円を預金した。次に、バブルが弾
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