ロビンソン・クルーソーの物語ならたぶん、誰でも知っている。しかし、知っているのは絵本や子供向けの脚色版で読んだからで、原作を読み通した人は少ないのではないだろうか。もったいないことだ。原著は刊行が1719年というから、もう300年近くも読みつがれてきたことになる。300年という時の試練を経てきた本が面白くないはずがない。吉田健一訳で『ロビンソン漂流記』(新潮文庫)を読めば、思いもしなかった魅力を発見できるに違いない。 本書の最大の魅力はもちろん、孤島への漂流という物語の面白さだが、それだけではない。波瀾万丈ではない部分、つまり孤島での日常生活を詳細に描いた部分がじつに面白いのだ。デフォーはこの本で「資本主義の精神」を見事に描いたと、何人もの経済学者が論じているほどである。たとえば、こういう部分がある。 私は私の現在の境遇について真剣に考え始めて、それを書いてみた。それは、私の後に来るものに