「こと恋愛においてはね。どうしても陶酔感に欠けるところがあるから」 彼はそこで吹き出すように笑った。遠慮会釈のないようすにむくれると、でも、男のことはよくわかってるよね、と真顔で返された。 どうこたえようか思案するあたりに、たしかに事実かと納得した。私には、ありのままこたえたほうがいいという発想がない。ウソはつかないけれど、自分の思っているとおりにこたえても相手が、男が、喜ばないという訓練が備わっていた。 「僕にはすごく蟲惑的だけど」 「コワクって最近あんまり聞かない言葉ね」 雰囲気を壊すつもりはなかったけれど、このミズキさんに褒められるのはむず痒いをとおりこして落ち着かない。受身にまわるのがこわかったし、何かを暴き立てられそうで、それはチガウと感じていた。 そうしたこちらの怯えを察知して、彼はうつむいた。 臆病を謗られなくてほっとしたと同時に、これはなかなか先へは進めないと気がついて笑い