今さらご機嫌をとられたような気がして振り返り、疑わしいと目をむけると、彼はまっすぐに絵だけに集中していた。 「ゴヤは好きじゃないんだよ。でも、ビアズリーと抱き合わせで売られてきて」 大好きな画家の名前に声をあげると、やっぱり姫香ちゃんも好きだと思った、と返された。十代のころは恥ずかしながら不健康で妖艶な絵が大変好みだったのだ。 「それと並べたかったんだけど、そっちは姉にとられた」 こんなにショックを受けたくせに、並べて欲しいとすぐに思った。あの大胆な画面構成の横にあったらさぞかし見劣りするだろう。でも、見てみたい。 「……ありがと」 「どういたしまして」 彼は目じりをさげてうなずくと、さ、見るもの見たからご飯にしよう、と口にした。 「で、姫香ちゃん、食べたいものは決まった?」 首をかしげると、自分のことなのにわからないの、という顔をされた。よほど情けない顔をしたのか、ミズキさんはすこしだけ
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