彼は難詰するような調子で眉根をよせた。 「相談に乗ってくれるんじゃなかったの? 離婚しそうな女のひとなんだよ」 いつ、そういう話しになったんだ。 「でも、私そのひとのことよく知らないし」 「だからこれから話すよ」 そうきたか。どうしてもひとりになりたくないんだな。参った。我が儘をごねるお姫様のようじゃないか。 この今も、思いつめたような顔で見おろしてくる。それはついうっかり、わかった、何でもするよ、と言いたくなるほどの強制力をもつ。このひと絶対、私が断れないってわかってるんだろうな。そう思うとさすがに腹立たしい。けれど、視線を先に外されて、憂いのある、うつむきかげんの横顔を見た瞬間、うなずいていた。 すると、たちまち彼がうれしそうに目じりをさげた。可愛い顔じゃないか。騙されたような気がするけど、いいや、騙されとけ。 それに、私はこのひとに恩がある。ほんとうに、感謝していた。だから、これでい
![3月17日 9 - 遍愛日記(磯崎愛) - カクヨム](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/58f94e95571ff995d1ad4a492a0f312aaba4fa79/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn-static.kakuyomu.jp%2Fworks%2F1177354054883450343%2Fogimage.png%3FAUNkZLQ14U-bmXPqE2XOEoFUWpQ)