「ミズキ」 そこで少し、ミズキさんは何かを探るような仕種で間をとった。浅倉くんからも、そして私からさえも距離を置いたみたいに見えた。その証拠に、すっと長い扇形の睫のしたで、遠くを見はるかす瞳が黒々と濡れて光っている。 「僕たちはもう、滅びることが決まった世界に生きている。抜け出す以外、道はない。僕は、姫香ちゃんが死ぬのはイヤだし、それはこわい」 思えば、このひとは誰よりも早く、この世界の崩壊を予期していたのだ。私がその顔を仰ぎ見ようとすると、彼は私の視線をよけるかのように目を伏せてかるく首をふった。 「僕は、それは、いやだ。それだけは厭だ。そんなことはたえられない。浅倉やよその男にとられるくらいなら手をかけたいと思ったこともあるけど、こうなってみるともう、そういう気持ちにはなれないよ。不思議だね」 「ミズキさん……」 なんで名前を呼んでしまったのかわからない。けれど、彼は私の呼び声を無視し