あれはまだ付き合い始めのころのことか。 あなたの叔父が、おれとあなたを行きつけの寿司屋に招いた。あなたはたいそう喜んで舌鼓をうっていたが、おれは正直面白くなかった。奢られることも、あのひとの世話好きな善人ぶった態度も、あなたの無防備さも何もかも。だからその傍らで水のように酒を煽った。酔いもしなかった。 あのひとは当然のこと、あなたももちろんおれの虫の居所の悪さには勘づいた。そしてふたりだけになってすぐ、自分よりずっと親しいのにと首を傾げた。おれは説明しなかった。じっさい言葉にもならなかった。家について、あなたの瞳にうつるのが自分だけになるまではずっと不機嫌だった。 あなたがあのとき自身の叔母について尋ねたかったらしい様子には気がついていた。あなたは不器用で、それともあなたらしい礼儀正しさのためなのか、容易にそれを口にのぼらせたりはしなかった。あのひとのほうも、あなたにそれを尋ねる口実を設け
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