それから数ヵ月後、とうとう皇后陛下が薨去された。 陛下は表向き、いつもと変わらぬ顔で過ごしていた。いささか酒量が増えたものの、それもすぐに元に戻った。 まだ三十代の陛下がお独りでいることを、そしてまた、これという飛び抜けた皇位継承者のいないことを、みなが案じていた。 年が変わって少したち、わたしは陛下に新たに皇后を迎える気がないかと尋ねた。 「世継ぎの件か」 「ええ」 陛下は書物から顔をあげ、いくらか視線をさまよわせた。 わたしは、毛皮につつまれて長椅子に横たわる陛下より頭が高くならぬよう絨毯のうえに直に座り、この異国風の生活を好まれた東の国からきた皇后の不在をしみじみと感じていた。 「あれの産んだ子は死んでしまったからな。下らぬ争いなぞせぬよう弁えているはずだが、そなたがいれば、残された凡庸な皇子のうち誰が帝位に就いてもどうにか治まろう。治まるように治めてきたつもりだ」 君主としての矜持